銘酒と美食のある風景〜 新潟のテロワールを愉しむ 〜vol.2
- 新潟馬主協会
- 3月11日
- 読了時間: 8分
更新日:6月30日
八海醸造 魚沼の里
八海山の伏流水を“団欒を深める日本酒”へ昇華する『浩和蔵』
2025年02月17日

上越新幹線の浦佐駅から車で南に15分ほど走ると、古くから霊峰として崇められてきた八海山の西麓に『魚沼の里』が広がる。八海醸造の3代目・南雲二郎氏の「魚沼の暮らしや雪国の文化を通じて“郷愁とやすらぎ”を感じていただきたい」との想いから誕生。2004年に『第二浩和蔵』が完成後、少しずつ施設が増え、今では7万坪という広大な敷地に、清酒『八海山』と同じ仕込み水を用いた『そば屋 長森』や『猿倉山ビール醸造所』など、約12の見学可能な施設が点在している。里山を眺めながら、出来立てのビールや、清酒『八海山』の天然酵母を使用したパン、雪室で熟成した“にいがた和牛”、日本酒や酒粕を用いたお菓子を味わえ、魚沼の恵みを五感で満喫できる場所だ。


雪中貯蔵庫見学ツアーでは、魚沼ならではの体験ができる。『八海山雪室』に入ると、1,000トンの雪が収容されており、大迫力!毎年2月頃に雪を搬入し、室内は一年を通じて4℃前後に保たれている。雪室は、雪国の人たちの工夫から生まれた天然の冷蔵庫で、日本書紀にも登場する。日本酒は、低温熟成させることでまろやかな味わいになるといわれており、貯雪室の隣には2万リットルの貯蔵タンクが20本並び、専用に仕込んだ日本酒が静かに眠りについていた。

『魚沼の里』の中央に位置する『第二浩和蔵』は、普通酒や特別本醸造酒を主に造っている。八海醸造は全国でも20位に入る製造量ながら、麹米造りや櫂入れなど、蔵人が手をかけるべきところに注力できるよう、工夫がなされた蔵だ。
通常は蔵の見学は行っていないが、今回は、魚沼の里から1kmほどの場所にある『浩和蔵』を特別に見学させてもらえた。こちらは、理想とする究極の品質を追求するための蔵。製造量は八海醸造の1%未満だという。八海醸造が目指すのは、お酒を飲みながら団欒を深められるような、香りは控えめで淡麗でバランスの良い味わい。『浩和蔵』では、年に1度、年末に自家用大吟醸を仕込み、酒質と仕事に向き合う姿勢を確認しているという。そうして醸された自家用大吟醸は、社長のメッセージと共に全社員に配布。年末年始に家族や友人と一緒に飲むことで、“団欒を深める酒造り”という共通の志を持てるようになるという。

案内してくれた杜氏の村山雅俊氏によると「日本酒にとって、麹は味わい、酵母は香りに大きくかかわり、それらを伝統技術で蔵の目指す酒質に醸し上げていく」とのこと。今回は、酒質の大部分を決めるともいわれる麹米造りを見学。まずは、蒸米(蒸されたお米)を半日かけて、手で攪拌しながら適正な水分量になるまで乾かしていく。乾いてパラパラになった蒸米は35℃。種麹をフワッと振りかけ、種麹が蒸米に均一に行き渡るように、蒸米を手で上下をひっくり返していく。再び、種麹を振り胞子が蒸米に落ちきったら、蒸米を手で揉み込み、蒸米の隅々まで種麹を行き渡らせる。その後、4人で白い布を仰ぐようにして、蒸米の温度が適正になるように微調整していく。温度計を用いながらも、ほとんどが蔵人の手に伝わる感覚のみで仕上げられる。温度がぴったりと合ったら、それ以上の乾燥と冷えを防ぐため、蒸米を山状に盛り込んでいく。麹室の室温は34℃。4人の蔵人が一言も話さず、阿吽の呼吸で盛りを仕上
げていく麹室には、神聖な空気が漂っていた。




「八海醸造のある南魚沼は、八海山の伏流水“雷電様の清水”という夏でも冷たい湧き水に恵まれ、低温多湿な冬の気候もあり、酒造りに適した土地です。100年の伝統を尊重しながら、技術を向上させ、進化していけるように、蔵人の手仕事を数値でも把握できるようにしているのです」と村山氏。
製造量の1%未満という希少な風味ー『浩和蔵』仕込みの日本酒を見かけたら、ぜひ、試してほしい。


魚沼の里
新潟県南魚沼市長森426-1
※ 各施設により営業時間は異なります。
※ 雪中貯蔵庫見学ツアーのご予約ができます。
酒蔵の一般見学は行っていません。
龍寿し
新潟の海の幸と魚沼の里山の恵みを、江戸前の技で握る
2025年02月17日

個室は4人部屋と6人部屋を繋げ、最大14名まで対応できる。
カウンターは9席。

上越新幹線の浦佐駅から車で南に10分ほど。『魚沼の里』の手前、水田に囲まれた住宅街で55年続く寿司店が『龍寿し』だ。店主・佐藤正幸氏は2代目。東京で修業を積み、故郷の南魚沼に戻ってきた際、「南魚沼でしか味わえない新しい味覚体験を通じて、ワクワクしてもらいたい!」という想いを抱くようになる。そうして生まれたのが、『魚沼ガストロノミープレミアムコース』。昼も夜も、コース1本のみ。旬の食材を取り入れ、2カ月ごとに変わるコースを求めて、香港や台湾から訪れるリピーターもいるという。


『龍寿し』のスペシャリテともいえるのが、南魚沼の名産の黒舞茸を用いた握りや料理。季節に合わせた形で、年間を通じて提供している。この日は、秋を感じる土瓶蒸しと、卵かけご飯で。土瓶蒸しは、お猪口に注ぐと香りが広がり、まるで里山にいるかのよう!黒舞茸は、白や茶の舞茸に比べ、特に香りが良いというのも頷ける。出汁にも黒舞茸の旨味が溶けだし、滋味深い。卵かけご飯は、細かく割いて素揚げにした黒舞茸を添えて。弾力がある黒舞茸は、少し焦がすと、更に香りが増すという。卵は鶏卵ではなくイクラを溶いたもの。サクッとした黒舞茸と、とろみのあるイクラとの食感の対比も愉しめる。
能生のアオリイカ、佐渡の南蛮エビ、能生のバイ貝
握りは、新潟の豊かな海の幸に甘えず、おいしさを引き出す仕事がなされている。能生で獲れたアオリイカは、身を横に5枚にスライスし、中心部分の甘味を引き出す工夫がなされている。佐渡の南蛮エビは、マイナス2℃で寝かせてあり、とろける甘さだ。能生で獲れたバイ貝には、胡瓜の佃煮が潜んでおり、思わず日本酒が飲みたくなる。



良いネタであれば新潟県外からも仕入れ、魚沼で愛されてきた食材と合わせ、新しい食体験として提供してくれる。気仙沼で獲れた鰹は、南魚沼産のコシヒカリの藁で焼き、心地良いスモーキーさをまとわせた。伝統野菜である神楽南蛮と玉ねぎ、みょうがをポン酢に漬けたものをあしらい、南魚沼ならではの握りに。希少な北海道産のあん肝は70℃で1時間半、ゆっくり火入れをし、ふんわりとした食感に。添えられているのは、六日町の『今成漬物店』の錦糸漬。八海山の酒粕で漬けており、ジュワっとした旨味が溢れる。シャキシャキとした食感は、あん肝との対比を愉しめる。
締めは、粉末にした南蛮エビの殻が入った玉子焼きで。握りで味わったとろける甘さとは異なる、南蛮エビの香ばしさを堪能できる。
シャリにも佐藤氏のこだわりが。1年ほど低温で寝かせた、南魚沼産のコシヒカリとこしいぶきの古米をブレンドしている。低温で寝かせることで表面の粘りが落ち着き、寿司に適した米になるという。なるほど、口に入れるとほどけていく。
コースは、握り12カン程度と季節の料理5品程度。本マグロやウニなど、こだわって仕入れた人気のネタから、野菜寿司、巻き物も愉しめる。雪深い南魚沼は、3月も雪景色の日が多いそう。4月からは山菜をアクセントにしたメニューが充実してくる。新潟の海の幸と魚沼の里山の恵みのマリアージュを、伝統の江戸前の技で味わう―何歳になってもワクワクできることが最高の贅沢なのだと、教えてくれた気がした。


龍寿し
新潟県南魚沼市大崎1838-1
※ 店舗の隣に6台のパーキング有
025-779-2169
※ 季節の良い素材を提供するため、できるだけ3日前までにご予約ください。
昼12:00〜、夜18:00〜
※ お客様全員、同時スタートになります。
水曜日、木曜日(昼)
16,500円のコースのみ(税込)
(握り12カン程度+季節の料理5品程度)
AUTHOR

慶應義塾大学を卒業後、アバレルのラグジュアリーブランドに総合職として入社。『東京カレンダーweb』にてライター・デビュー。エッセイスト&オーナーバーマンの島地勝彦氏に師事し、ウイスキーに魅了される。蒸留所の立ち上げに参画した経験と、ウイスキープロフェッショナルの資格を活かし、『Advanced Time Online』(小学館)に連載を持つ 公社)日本観光振興協会 日本酒造ツーリズム推進協議会会員。
STAFF
Photos|Hironori Uzuki
Writer|Arisa Magoshi











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