Owners Voice Vol.01 是枝 浩平
- 新潟馬主協会
- 2023年7月31日
- 読了時間: 13分
更新日:10月9日
気鋭の馬主の声を届ける、
Owner’s Voiceがスタートします。
記念すべき第一回は、
3歳ダート戦線で活躍中の
オマツリオトコなどのオーナーである
是枝浩平氏をお招きし、
馬選びのこだわりや自身の所有馬や
グランド牧場との交流など、
様々な話題をたっぷりとお話しいただきました。

右:是枝 浩平/左:梅田陽子(フリーアナウンサー)
飯塚会長がきっかけで新潟馬主協会に入会
梅:まず新潟馬主協会に入られた理由から教えてください。
是:30年ほど前から、なぜか私の近いところに飯塚会長がいらっしゃるんですよ(笑)。若手経営者の会のような集まりでしたけど、当時から飯塚会長は、何万人も会員がいるその日本全国組織のトップなんです。私は地方支部のまたその下の役員でしたけど。その会員が集まるパーティーで、飯塚会長がいつものゆっくりした口調で会員の前で話をしていたはずなのに、気がつくと私のすぐ横にいて「面白くないから飲みに行こうぜ」って(笑)。
梅:会長、自由ですね(笑)。
是:はい(笑)。そんな頃からのお付き合いでしたから、新潟馬主協会しか選択肢はなかったです。
梅:新潟馬主協会に入られての印象を教えてください。
是:残念ながら入会して割とすぐにコロナになってしまって、正直交流があまりできませんでした。去年あたりからホテルで行われる懇親会などが再開されたので、出席させていただいています。優しくてフレンドリーな方たちばかりで、月並みな表現になりますが本当にアットホームです。恐らく飯塚会長をはじめとして、長年の間に築いてきた雰囲気なのかなと勝手に思っています。

乗馬から競走馬のオーナーへ
梅:若手経営者の会の話題も出ましたが、そもそもどのようなお仕事をされてきたのですか?
是:アパレル関係です。扱っているのはメンズだけですが。
梅:ご自分で始められたのですか?
是:父の会社を継ぎました。当時私はアメリカに住んでいたのですが、急に呼び戻されて会社を継ぐことになりました。
梅:そうだったのですか。
是:実はこれまで28社を経営してきたのですが、2年前にこのまま死ぬまで働き続けるのは嫌だなぁと急に虚しくなったんです。コロナでファッション業界は壊滅的になりましたしね。
梅:皆さん、外出を控えていましたしね。
是:だから商談もできないんですよ。1年後の商品を作っているので、商談ができないと1年間売上げがなくなるんです。悲観的になった時期もありましたが、7人の部下に会社を分割して継いでもらって、結果的にはハッピーリタイアができました。
梅:是枝イズムは部下に継承して...
是:イズムかどうかはわかりませんけど(笑)。
梅:今は、職業「馬主」ということで。
是:はい、それだけです。
梅:馬主になったきっかけを伺いたいのですが、馬や競馬との出会いからまず教えてください。
是:競馬や馬券は何も知りませんでした。50歳過ぎた時(約9年前)に家族みんなでできる趣味はないかなと思って、たまたま某乗馬クラブの体験乗馬に娘2人と家内の4人で、軽い気持ちで行ったんですよ。そうしたらもう、その1時間でハマってしまって、乗馬クラブに通い始めました。ただクラブの狭い敷地よりも広い場所の方が面白そうだと思ったので、小田原に牧場を見つけまして、自馬を購入して、そこで乗るようになりました。
梅:それでご自分の馬をその牧場に置いて、ご家族で乗っていらした?
是:ええ、そうです。それから何年かそのようなことをしていたのですけど、私が落馬したんですね。その時は小田原から別のクラブに移っていたのですが、骨折して右腕あたりの骨がグチャグチャになって今でもパイプで繋がっています。
梅:ええ!そうなんですか?
是:はい、もしもう1度落馬したら肩か肘をやられるから、絶対に乗馬はやめた方が良いと医師に言われまして。
梅:それでどうされたのですか?
是:馬の周りにいる人たちには独特の雰囲気があって、商売だけでは絶対に巡り会えないタイプの方々なんです。だから馬の周りにいる人たちと繋がっていたかったんですよね。それで競馬しかないと思いまして、馬主になるにはどうしたらいいのかというところから始まりました。
梅:実際に馬主になられていかがでしたか?
是:乗馬と競馬なのでタイプは全く違いましたけど、やはり馬の周りにいる人たちが私は好きですね。
梅:馬や馬に関わる人との出会いは必然だったのかもしれませんね。
是:今振り返ると私の人生の所々で、馬が関係しているんですよ。例えば馬主になる時に親父に大反対されて、でも結局諦めて認めてくれたのですが、その時に昔軍馬を2頭飼っていたことを明かしてくれました。こちらはとても驚きましたが、親父が馬好きだったことがわかり、馬に繋がっていたのだなと思いました。
自馬を購入するまでに、家族ぐるみで乗馬にのめり込んだが、落馬による大怪我を負ってドクターストップがかかった。
伊藤圭三師とグランド牧場との出会い
梅:馬主になっていよいよ馬を購入するわけですが、そのあたりをお聞かせください。
是:馬主免許を取得するのに、申請してから半年から1年くらいかかるんですよね。確か5年前の春くらいに馬主資格が取れたのですが、そこから1歳を購入するとデビューは1年後になってしまうので、ブリーズアップセールで買おうということになりました。ただ競馬自体を知らなかったですし、調教師さんに知り合いもいなかったので、JRAの相談窓口に相談したり、周りの競馬好きに聞いたりしながら探したのですが、打診しても断られ続けまして、何人目かに伊藤圭三先生に巡り会うことができました。
梅:そういった経緯があったのですね。
是:伊藤先生は、今年の春に亡くなられたグランド牧場の会長の弟でもありますので、まずその牧場に連れて行ってもらったんですよ。その時に「どの馬が見たい?」と会長に40頭ほどの生産馬のリストを渡されたのですが、血統がわからないので選びようがないんですよ(笑)何か所かの分場に分かれて馬がいますので、お手間をかけさせてしまうのは申し訳ないからと何となくの勘で1頭だけ削ったんです。
梅:それでも39頭ですね。
是:丸一日かけて見て、それに会長がずっと付き合ってくださって「あなたはよく馬を見るね」と呆れてるんですよ(笑)。スミマセン、スミマセンと言いながら見せてもらいました。夕食をご一緒した時に「あなたみたいに真剣に馬を見る人は初めてだ」と言われ「馬の何を見てるの?」と聞かれたのですけど、わからないから見るしかないと思っていますと答えました。
梅:リストから1頭だけ除外したことについては?
是:なぜ除外したのかを聞かれました。なぜかと言われてもよくわからないのですが、1頭でも減らして牧場さんのお手間を少なくした方が良いのではないかと思いましたと。すると「その馬が1番自信があったんだよね」と仰られて(笑)。
梅:ははは(笑)。グランド牧場さんとのお付き合いは、そこからだったのですね。
是:グランドの会長からは本当にいろいろなことを教わりました。

最初の愛馬コルク
梅:ブリーズアップセールには伊藤先生とご一緒に行かれたのですか?
是:はい。でも値段の相場もわかっていなかったですし、結局買えなかったんです。厳しい世界だなと思ったのですが、わりとすぐに千葉セリ(千葉サラブレッドセール)がありましたのでそこで購入しました。
梅:やはり現地に行かれて?
是:あの時はとても大事な外せない会議がありまして...伊藤先生はメールをおやりにならないですし、会議中に電話をするわけにもいかないので、秘書を伊藤先生に同行させました。
梅:では秘書の方とメールでやり取りをして?
是:秘書から、「600です」とか入ってくるので、「650」と返すなどやり取りをしました。
梅:それで最終的に1,015万で落札されて、のちにコルクと名付けられたわけですね。伊藤先生のオススメだったのですか?
是:いえ、私が選びました。
梅:どのあたりが良かったのでしょう?
是:血統もよくわかってなくて、コルクの父のナカヤマフェスタは聞いたことあるなという程度で。
梅:ナカヤマフェスタは海外(凱旋門賞2着)でも活躍しましたよね?
是:そういうのも後から知ったんですよ。
梅:ではどのように選んだのですか?
是:当時は歩様ですね。肩の出とかトモの踏み込みを見て、わからないなりに自分で選びました。
梅:ご自分が選んで購入されたコルクは、7月に福島競馬場でのデビューでしたね。
是:はい。福島競馬場には子会社の社長など5、6人で行ったんですよ。出走表を見たら有名な馬主(金子真人氏)さんの馬も名を連ねていたりして、大丈夫なのかなと思いました。それでコルクの複勝だけ買ったんです。
梅:それまで馬券を買われたことは?
是:1度もなくて、その時生まれて初めて馬券を買いました。
梅:結果は2着と健闘しました。
是:こんなに嬉しいことが世の中にあるんだと思いました。人気薄でしたし、まさか2着になるとは想像もしませんでした。
梅:調べてみると上がりも最速でしたしね。
是:よく覚えてないです、興奮状態で(笑)。ともかくあんなに嬉しかったのは生まれて初めてでした。
梅:一緒に行かれたお仲間も?
是:大興奮です。この時の経験は強烈でしたね。一生馬主をやり続けようと思いました。
梅:では是枝オーナーの思い出の1頭は、コルクでしょうか?
是:そうですね、コルクですね。
馬主としての喜びを知るきっかけをくれたコルク。
足元に不安があった同馬のもとに、家族でよくお見舞いに訪れた。
オマツリオトコとの出会い
梅:是枝オーナーの馬主としてのこだわりはありますか?
是:やはり馬は自分で選ぶということでしょうか。
梅:それにはご自身も相当勉強をされたのでは?
是:乗馬をやめて怪我をしている時期に、(競馬関係の)本を読み漁って、勉強のためにクラブで一口会員をやっていました。一口時代は牧場を回って徹底的に馬を見ました。
梅:出資された馬で皆が知っているような馬は?
是:比較的最近になりますが、エフフォーリアです。他に重賞を勝った馬はいなかったですね。
梅:一口会員での経験がコルクをはじめとする馬選びに繋がっているのですね。
是:その頃は歩様はある程度はわかるぞという気持ちになっていました。あとからその自信は木っ端微塵になるのですけどね。
梅:ではこれまでの所有馬はすべてご自身でお選びに?
是:伊藤先生に最初にお会いした時に、素人で申し訳ないですけど馬は自分で選ばせてくださいとお願いしました。選んだ馬の脚元など専門的なことはプロである先生にチェックしてもらって、先生からオッケーが出た馬を購入しています。でも血統がわからないので、自分で選ぶのは相当難しいんですよ。だからこそ1頭1頭見るしかないんです。
梅:これからセリのシーズンですが、セリではどのように選ばれていますか?
是:決まった牧場や、事前に動画や写真で馬をチェックできるところに限定しています。
梅:動画だと動きを確認できますもんね。
是:それで馬を絞り込んで、後はセリ当日に実際に見て、最後は馬と10秒ほど向き合って感じるものを大事にしています。自分を持っているような顔をしている馬が好きですね。
梅:そのような自分なりのスタイルは大事ですよね。そして今年はオマツリオトコが、ジャパンダートダービーに選定されましたね。
是:この馬はセリで見た時に、体形と歩き方に惚れ込んだんですよ。
梅:この馬も血統で選ばれたわけではないのですね?
是:血統はいまだによくわからないです。とにかく馬を見て絶対に欲しいと思いました。周りはこの馬の父のヴィットリオドーロってどんな馬?という感じなんですよ。でも絶対に良い馬だと思いました。無名の種馬ですし、7,800万で買えればいいなと考えていました。
梅:実際は1,430万でしたね。
是:はい、割と高くて、当時私が買った馬の中で最高額だったんです。その夜、グランド牧場さんのご家族とお食事をして、会長の息子さん(社長)が「今日は是枝さんがあの馬を買ってくださった」と会長に伝えたんです。すると会長が「是枝さん、この馬は絶対に走るよ」と大喜びしてくれました。あとから聞いたら、会長ご自身のホースマン人生をかけて作り上げてきた血統の馬だということを知りました。
梅:購入された時は、そのことはご存じなかったんですね。
是:はい、そこまでは知らなかったです。
是枝チームのエース・オマツリオトコが横山武史騎手を背に、
第24回兵庫ジュニアグランプリ(JpnII)を制覇した。
快進撃からの迷走
梅:そして昨年デビューしました。
是:函館の新馬戦で強烈な勝ち方だったんです。その時は社長である息子さんが見に来てくださっていて、この後はしばらくレースを使えないねという話をしたのですが、芝は向いていないかもしれないけど、函館2歳ステークスに使うことになりました。
梅:夏の2歳戦はダートの番組が少ないですもんね。
是:当日は会長が5時間かけて新ひだか町から来てくださいました。
梅:日高方面から函館は遠いですもんね。それで結果は3着でした。
是:物凄い追い込みで、会長がまた大喜びしてくださったのも思い出深いですね。
梅:その後、また得意のダートに戻して?
是:はい、後半は快進撃でした。
梅:ヤマボウシ賞、兵庫ジュニアグランプリと2連勝。
是:全日本2歳優駿は惜しい2着でしたが、十分強い内容だったんですよ。ところが年明けてから、私も先生も迷走し出しまして(笑)。合う条件がわからなくなったんです。右回りが得意なのはわかっているのですが、左回りは勝ってはいますけどどこまで苦手なのかが今ひとつ掴み切れなくて。しかも他馬より斤量を背負わせられるんですよ。
梅:重賞を勝っていますしね。
是:東京のヒヤシンスステークスは斤量58キロで全然ダメ(13着)で、ジョッキーの乗り方含め何となくモヤモヤが残りました。
梅:次は中山で芝のニュージーランドトロフィーでしたね?
是:函館2歳Sで好走したので、芝も諦めきれないという思いもあったのですが全然ダメでした。やはり芝に憧れるんですよ。でも芝は消しだとそこでわかったんですよ。
梅:それで東京1600mのユニコーンSに出走したのですね。
是:この時は斤量も56キロで他馬とハンデなくまともに走れるとは思いましたが、距離が大丈夫なのかなと心配でした。
梅:結果は3着馬とはあまり差のない6着でしたね。
是:初めてミルコ(デムーロ)にお願いしたのですが、レース後に距離はもっと長い方がいいと言ってくれたので、2000mのジャパンダートダービーに使うことにしましたけど、まだ何ともわからないですね。
※取材は2023年6月29日 時点
梅:でも走るたびにいろいろ見えてくるものもあるのではないですか?
是:そういうことを調教師と飲みながらいろいろ話をするのが、すごく楽しいなと思っています(笑)。
梅:馬主になって良かったことの1つですか?
是:そうです。お付き合いする調教師も少しずつ増えてきまして、最初に「飲ませてください。飲まないと人と付き合えない質なんです」と言って、まず飲むんです(笑)。そこで「馬は自分で選ばせてください」など、いろいろな話をしています。今は4人の調教師とお付き合いがありますが、それが本当に楽しいですね。
いつか所有馬を有馬記念の舞台に
梅:では最後に近い将来の目標と最終目標をお聞かせください。
是:今、少しずつ自分の牝馬を増やしていってるんですよ。やはり自家生産馬で勝ちたいというのとオマツリオトコがダートのGI級になるのが、近い将来の目標ですね。
梅:最終目標は?
是:芝の重賞から始まって、やはり芝のGIを取りたいですね。
梅:特に勝ちたいレースは?
是:有馬記念ですね。キタサンブラックが大歓声の中、有馬記念に勝った時は涙が出てきて、レースを見て感動して泣く自分にビックリしました。キタサンブラックが競馬に関わってから初めてリアルタイムで一生懸命見ていた馬だったというのもあると思います。それもあって、有馬記念の舞台で勝つことが1番の夢です。
STAFF
direction・edit|Kenichi Hirabayashi(Creem Pan)
Writer|Sachie Sasaki























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