Owners Voice Vol.05 佐野信幸
- 新潟馬主協会
- 7月31日
- 読了時間: 14分
更新日:10月9日
気鋭の馬主の声を聞けるOwner’s Voice。
5回目の今回は記念すべきJRAでの1頭目の所有馬
サノイチで第33回フェブラリーS出走を果たした
佐野信幸氏をお招きし、
馬主になるきっかけや思い出の馬たち、
馬主の魅力など様々な話題について
たっぷりと語っていただきました。
司会はフリーアナウンサーの梅田陽子氏です。

右:佐野 信幸/左:梅田陽子(フリーアナウンサー)
佐野 信幸
1999年に地方競馬の馬主資格を取得。
2013年に中央競馬の馬主資格を取得すると、2016年に新潟馬主協会に入会。
中央競馬で最初の所有馬となったサノイチがGIフェブラリーSへの出走を果たし、
以降もコンスタントに活躍馬を所有している。
金沢から馬主ライフをスタート
梅:まず新潟馬主協会に入った理由を教えてください。
佐:初めて行ったJRAの競馬場が新潟競馬場だった、というのが一番ですが、新潟馬主協会の皆さんはすごく優しくてセリで会っても友達のように話しかけてくれるのでいいな、と。あとは生まれ育った富山の隣で環境も似ているというのもありました。それから、私はゴルフが趣味なんですが、新潟馬主協会は盛大にコンペをやってくださるのでそれも理由の一つですね。毎回のようにコンペに参加させてもらってますよ(笑)。新潟馬主協会の方々はすごくフレンドリーで仲が良くて、会長も1杯飲んだらもうニコニコ。今から馬主始めるよって皆さんは、新潟馬主協会に入るべきだと思います(笑)。
梅:新潟馬主協会はフレンドリーなところをモットーにしてらっしゃいますもんね。早速ですが、オーナーと馬との出会いを教えてください。
佐:今から40年くらい前に友人に誘われて金沢競馬に行って、そこで大人たちが無邪気に大歓声をあげている姿に魅せられてしまい、そこから競馬に興味を持ちました。
梅:その頃の金沢競馬というと、すごそうですね。
佐:バブル景気の真っ只中でした。今じゃ考えられないくらいお客さんがいて、駐車場が足りなくて近くの畦道までお客さんが停めているみたいな状態でした。
梅:馬主になられたきっかけはなんだったんですか?
佐:当時はそんな大盛況ぶりだったので、「馬主になれば馬主駐車場が使えるぞ」なんて言いながら私に馬主を勧める空気感がありましてね。たまたまビジネスの方も上手くいってた時期だったので「じゃあやるか」と思って始めました。私は富山県出身で周りにいた人たちもほとんど富山の人でしたから金沢競馬で馬主をやってる人はいませんでしたし、その中でそう勧められて、その気になって地方の馬主資格を取ったのが1999年のことでした。
梅:地方競馬の馬主として初めは金沢で馬をお持ちになられたんですね。
佐:毎年2~3頭くらいをデビューさせる感じで楽しく遊んでいたんですが、知り合いの調教師から誘われて、大井にも馬を入れさせてもらうようになりました。そこで良い競馬をさせてもらってたんですよね。
梅:その時の馬の名前は覚えてますか?
佐:もちろん。初めて大井に入れたコーワキングが4000万円くらい稼いでくれました(大井で通算9勝、生涯獲得賞金4555万円)。応援に行く度に勝ってくれたり、今のJRAのトップジョッキーである内田博幸騎手や戸崎圭太騎手が乗ってくれてね。その後、彼らがJRAに移籍したり、大井で知り合った馬主さんがJRAの馬主資格も持ってて「佐野さんもJRAで馬持てばいいよ」と勧められるようになったんです。最初は「どうかなぁ」と思っていたんですが、その方の所有馬がダービーで3着に入ったんですよね。
梅:ダービーで3着!なんという馬ですか?
佐:アポロサラブレッドクラブのアポロソニックです。2013年のダービーでキズナ、エピファネイアに次いで3着でした。それを見て「JRAもいいな」と俄然思うようになりましたね。JRAに入れる馬も用意しておいたので、金沢での馬主デビューから十数年を経てその年にJRAの馬主としてデビューしました。

小林美駒騎手とコンビを組んだサノノロンドンは10番人気の伏兵評価を覆し勝利。
以降も同馬の主戦として継続騎乗中だ。
JRAの初所有馬がGI出走へ
梅:JRAで初めてデビューさせた馬は覚えてますか?
佐:それがサノイチなんですよ。初めのうちは「どうなることかな」と思ってましたけど、走る度に段々と強くなってくれて本当にタフな馬でしたね。地方競馬の馬主時代から牧場巡りが好きでいろんな牧場を回ってたんですが、中でも大井で頑張ってくれたコーワキングの生産牧場である豊洋牧場の社長と仲良くなって。「この馬、すごく小さくて売れないんだ」って紹介されたのがサノイチとの出会いだったんですけど、すごく輝いて見えたんですよね。
JRAで5勝を挙げたサノイチ。キャリア後半の3勝は内田博幸騎手とのコンビであった。
2勝目の鞍上は2014年に一度だけ短期免許を取得したエスポジート騎手。
オーナーと内田博幸騎手は地方馬主時代からの長い付き合いになる。
梅:どのあたりが輝いて見えたんですか?
佐:馬小屋から出てくる時にキラッと目があったような気がしてね。たぶんこちらの思い込みなんだけど(笑)。それで「この子、どうしても欲しいんだよ」って相談してね。ちょうどJRAの馬主資格を申請しようとしてた時期だったので、この馬をJRAでの最初の馬にしようという気持ちと1勝だけでもしてほしいと思いを込めて“サノイチ”という名前に決めました。
梅:JRAで1勝するのも大変だと思うんですけど、サノイチはなんと5勝を挙げました。
佐:まず無事にデビューするのが大変ですし、知り合いの馬主さんでもなかなか勝てないという人もいらっしゃる。自分もそう簡単にうまくいくわけないと思ってたけど、勝ってくれて2016年にはフェブラリーSにも出走してくれたものですから、こちらも気持ちが盛り上がりました。それからは毎年5頭くらいはJRAでデビューさせたいなと思って今日に至ります。
梅:サノイチの新馬戦のことは覚えてますか?
佐:もちろん覚えてますよ。パドックでひっくり返りましたから(笑)。パドックを回りきれなくてコーナーに突っ込んでいったんですよ。ヤンチャで調教師さんや厩務員さんをちょっと困らせてたみたいですね。
梅:サノイチは尾形和幸厩舎でしたね。
佐:最初は柴崎勇厩舎に預ける予定だったんですけど、柴崎先生が亡くなられてしまったので一時的に菊川正達先生が代理で預かってくださってデビューを迎え、その後に同年から調教師デビューだった尾形先生のところに転厩しました。サウスヴィグラス産駒なので芝なんてほとんどダメだろうと思ってたんですけど、5着に入ったので「これは走るわ」と思ったのを覚えています。
梅:掲示板に馬番が点滅した時はどうでしたか?
佐:ただただ感激しました。JRAで自分の馬が出走するなんて以前は考えもしなかったですから入着してくれて大満足でした。そこから新潟で4着、8着、中山で3着と少しずつ前進してくれましたね。デビュー戦は452kgと最初はやや小柄な馬でしたけど、走る度に強くなるといった感じで、段々と逞しい身体に成長してくれましたね。最後のレースでは485kgになっていました。
梅:初勝利は田辺裕信騎手を背にして、東京競馬場でした。
佐:富山出身の私からすれば東京なんてすごい場所ですから(笑)。 内田博幸騎手や戸崎圭太騎手も大井時代から乗ってくれていて親しい存在でしたが、田辺裕信騎手はすごく気さくで楽しい人だからそれで仲良くなって騎乗依頼したんです。こうして交流があることで騎手と仲良くなれて嬉しいですよ。
梅:初勝利の後、500万条件(現1勝クラス)で2、3着が続きましたが、どんなお気持ちでしたか?
佐:そろそろなんとかしろよって気持ちでしたね(笑)。 ただ、同時に「クラスが上がってもこんなに頑張ってくれるんだ」という嬉しさもありました。
梅:そして初勝利から7戦目、新潟で待望の2勝目を挙げました。
佐:短期免許で来日してたM・エスポジート騎手で勝ったんですが、口取り写真を撮っている時にすごく嬉しかったのを覚えてますよ。2勝目を挙げるまででデビューから1年ちょっとで12戦もしてくれたんですけど、尾形先生が「この馬は休ませて強くなる馬ではなく、使って強くなる馬だと思う」と仰っていました。その見立て通りに、使う度に馬体も精神面も良い成長を遂げてくれました。人間に歯向かってたタイプですが、徐々に言うことを聞くようになっていきましたね。1000万条件(現2勝クラス)と1600万条件(現3勝クラス)では内田博幸騎手を背にして勝利し、さらにはGI出走の機会にも恵まれました。
梅:馬主になられてから、GIを意識されたのはいつ頃でしょうか?
佐:JRAに馬を入れた時点ではGIを意識することは全くなく、夢のようなものでした。ところが準オープンを勝った時、先生が急に「出られるなら一回GIにトライしましょう」と。びっくりしたけど、もし出られるならと思って。当日はすごく緊張したのを覚えてますね(笑)。
モーニンが勝利した2016年フェブラリーSにも参戦。ノンコノユメ、
コパノリッキーなど当時のダート界を担う面々と直接対決を果たした。
その2ヶ月後のオープン競走オアシスSでは3着に入り、GI出走馬の力を見せつけた。
「継続は力なり」 10年後、20年後も馬主を

梅:パドックの内側から見る景色はどうでしたか?
佐:テレビでは見たことありましたけど、自分が内側から見るのは生まれて初めての景色でしたから、なんと言うか「やったぜ」みたいな感覚がありましたね。所有馬がGIに出走できる馬主さんも限られている中で、それが1頭目でしたからとてもいい思い出になりました。その後はなかなかそういう馬は出てなかったですけど運がいいのか、毎年コンスタントには勝たせてもらってますね。
梅:調べたところ、JRAの馬主になってから13年連続勝利だそうです。
佐:そうですね。勝たせてもらってます。最初の2年か3年くらいはビジョンサラブレッドクラブという名義で走らせてましたが、その時が7勝で今は個人名義で37勝ですから通算で44勝(6月3日現在)ですかね。新潟馬主協会の諸先輩はもっとたくさん勝ってますから、私の生涯目標としては、まだまだです。100勝くらいはしたいなと思っているんですが。
梅:馬主を長く続けるコツみたいなものはありますか?
佐:セリで熱くなって値段が上がっても、ある程度セーブしながら予算内で収まるようにしてます。長く続けたいと思ってJRAの馬主になったので、「継続は力なり」というわけではないですが、10年後、20年後も馬主を続けていたいなと思っています。ありがたいことに尾形先生や栗田先生、中舘先生と長くお付き合いさせていただいてるので、あとどれくらい生きるのかわからないですが、死ぬまで馬主でいたいものですね。
馬を求めて各地を飛び回る佐野さん。
「セリに参加して諸先輩方の馬の見方なんかのお話を聞いて、その積み重ね」という言葉通り、
サマーセール以降のセリにはほとんど参加している。
梅:今後も、毎年5頭くらいのデビューを継続させたいということですね。
佐:そうですね。そのうちの1頭が勝ち上がってくれればいいなという感じです。去年は4頭デビューして3頭勝ち上がってくれたけど、その前は期待していた1頭がまだ競走馬名もつけないうちにマリー病(肥大性肺性骨関節症)という難病に罹ってしまってデビューできなかったりと、非常に残念なこともありました。
梅:つらい出来事に直面することがあっても馬主を続けている、その原動力はどこにありますか?
佐:もう「馬」にハマっていますからね。年間スケジュールは、最初に色々なところのセリの予定を入れて、その合間に他のことをしてる感じです(笑)。
梅:今はJRAと地方にも所有馬がたくさんいるということですね。
佐:そうですね、今も金沢と大井に所有馬がいます。毎年、地方でもデビューさせてますから、積み重なるだけでもそれなりの頭数になりますよね。高知や名古屋にも在籍していますし、門別でも毎年1頭はデビューさせてます。頭数が増えすぎるのも大変だから、これからさらに他の競馬場に…というのは考えにくいですけど、やっぱり、馬を見てるだけでも楽しいですからね。
梅:馬券の方は今も買われるんですか?
佐:…そ、そうですね。あまり大きな声では言いたくないですが(笑)。
梅:目が泳いでらっしゃいます(笑)。
佐:前ほどは買いませんよ。でも、買います。もともと競馬も馬券から入りましたし、馬主を勧められたのも馬券をたくさん買っていたからでしょうしね。たまに買いたくなる時はありますけど、最近は大人しくしてます。でもJRAで出走がある時は絶対買うようにしています。単勝は必ず買って、あとはプラスαで買うかな。
梅:プラスαは、馬連とかですか? それとも、3連単?
佐:複勝ですね。基本的に自分の馬が出走する時は自分の馬が勝つかどうかしか考えてないし、他の馬のことを考えられるほど冷静じゃないのでね。今もこうして話しているけど、「(3頭が出走する)今度の日曜はどうなるかな」って考えているくらいですから(笑)。
梅:先ほど馬のことを最優先でスケジュールにというお話でしたが、合間にお仕事という感じですか?
佐:もちろん、仕事もやっています。あとは最初に話した通りゴルフが大好きですし、旅行も好きですよ!
2023年の愛馬会ゴルフ大会は優馬の佐藤直文さんが優勝(女性部門は石山愛子アナが優勝)するなど、
報道関係者や女子プロ、競馬関係者など幅広い著名人が集う華やかな大会となる。
佐野さんも2022年にベストグロス賞を受賞、2017年に3位に食い込むなど上位の常連として名を連ねる。
Afterword
梅:普段のお仕事のことも、可能な範囲でお伺いしていいですか?
佐:22歳でおもちゃ屋を起業しました。ただし自分も「あれもこれもしたい」 という年齢だったし、世間もバブル景気で元気だったので、他にも飲食店や靴屋とか色々な商売をしましたね。人にも仕事にも恵まれました。馬にも恵まれていますけどね。
梅:馬に恵まれているということですが、馬を選ぶ時に大切にしていることなどはありますか?
佐:血統とかは特に気にしてないですけど、セリに参加して諸先輩方の馬の見方なんかのお話を聞いて、その積み重ねですね。長く続けるためにも「背伸びしてまでは買えないな」と思っているので、セレクトセールでは今まで1頭しか購入したことがありません。かわりに、サマーセール以降のセリにはほとんど参加して、たくさん馬を見てます。
梅:ご自身で牧場も回って、それをもう25年くらい続けていらっしゃるんですね。
佐:たぶん年間で2000頭くらいの仔馬を見てるんじゃないかな。それが経験として積み重なってるので、なんとなく「この馬がいいな」みたいなものはあります。その価値観の中で懸命に選ぶようにしています。大先輩の馬主さんのブログに「1億円の馬を1頭持つより、1000万円の馬を10頭持って色々な方と知り合いになりたい」と書いてあったことがあるんですけど、私も同感です。一頭一頭にドラマがあるからこそ、色々な方と繋がりを楽しみたいなと思ってますね。
梅:素敵ですね。今後の目標などは何かはありますか?
佐:繰り返しになりますが、まずJRAで100勝することが当面の目標ですね。今が44勝(6月3日現在)ですからちょうど折り返しくらいです。今年一番の期待馬サノノグレーターは新馬戦で本当に強い勝ち方をしてくれました。尾形和幸調教師からは新潟2歳ステークスに向かいますので楽しみにしてくださいと言われています。また、サノノワンダーは前走小金井特別でも古馬相手に好走してレパードステークスへ向かう予定です。わたしたちのホームグラウンドの新潟競馬場の名物重賞に愛馬2頭を出走させることが出来て、期待に胸を膨らませています。2頭を含めた愛馬に活躍してもらって、将来的にサウジアラビアやドバイ、アメリカなど海外遠征もしてみたいという気持ちが高まってきました。新潟馬主協会から、あのロマンチックウォリアーに勝つ馬のオーナーさんが出たわけですから。近いところにそういう方がいらっしゃると「自分も!」という気持ちにはなりますよね。そのためにも、馬主を長く続けて、1頭でもそういう馬に巡り会いたいなと思います。
梅:これから馬主になりたいという方に馬主の魅力を伝えるとしたらどんな言葉になりますか?
佐:「夢と希望と感動」ですね。さっきの海外の話じゃないですけど、いくつになっても夢を見られるし、希望を抱かせてくれる。デビューして勝ったりしてくれれば、半端じゃない感動がありますよね。何万人って人が競馬場に来るわけで、その中で、自分の馬が走るんです。それだけですごい感動ですよ。
梅:夢と希望と感動、とてもいい言葉ですね。
佐:それから馬の繋がりで初めて会った全然知らない方々と仲良しになれるんですよね。それって素晴らしいことだと思うんですよ。
梅:馬きっかけで人の輪がどんどん広がっていきますよね。
佐:そうですね。そして厩務員さん、調教師さん、騎手もみんな命をかけて馬に携わってくれるわけですから、こんなに素晴らしいことはないです。あとは毎年毎年デビューしてくれる馬たちがいるから、失敗したことを忘れさせてくれる点も大きいです。落ち込んでる暇がないですもんね。お金に余裕があるなら、みんな馬主やった方がいいと思います。もしお金に余裕がないなら、余裕ができるように仕事を一生懸命頑張る、と。そうすれば、人生に「夢と希望と感動」を与えてくれてますよ。
STAFF
direction・edit|Kenichi Hirabayashi(Creem Pan)
text|Sanechika Hidema(Umafuri)
proofreading|Kishin Ogata(Umafuri)





























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