Owners Voice Vol.03 䔥 敬如
- 新潟馬主協会
- 2024年7月31日
- 読了時間: 13分
更新日:10月9日
気鋭の馬主の声を届ける、Owner's Voice。
3回目の今回はオセアグレイトで
第54回ステイヤーズステークス(GⅡ)を制した䔥 敬如(しゅく・けいじょ)氏をお招きし、
馬主になられたきっかけや印象的な思い出、
新潟との縁など、さまざまな話題を
たっぷり語っていただきました。
司会はフリーアナウンサーの梅田陽子氏です。

右:䔥 敬如/左:梅田陽子(フリーアナウンサー)
䔥 敬如
IHRのメンバーとして組合馬主の資格を取得し、2019年に新潟馬主協会に入会。
同年1月にはオセアグレイトが中央初出走を果たす。
2020年に同馬で第54回ステイヤーズステークス(GⅡ)を勝利。
個人でも「XIAOジャパン」名義で中央競馬の馬主資格を取得し、
2021年に個人として新潟馬主協会に入会する。
弟に誘われて組合馬主に
梅:まずは馬主になられたきっかけについて教えてください。
䔥:馬を始めたのは、弟の影響なんです。弟が先に地方で競走馬を走らせていたのですが、中央の馬を持つ時に組合馬主で登録することにしたのです。組合には10人まで入れるのですが、最低3人は必要ということで、弟に頼まれて父と僕が入りました。組合名の「IHR」は僕が付けたもので「International Horse Racing」という意味です。ですから、初めは組合馬主からでした。
梅:それで新潟馬主会に入られたのですか?
䔥:うちの弟が登録していた関係で、IHRは京都馬主会だったのです。その後、周りの方々から「弟さんもやっているのだから、真剣にやったほうがいいよ」と言われ、自分でも馬を選んでIHRで走らせたいと思うようになりました。馬主の廣崎利洋さんとは以前から親しくて、個人でも馬を持つようにとずっと言われていたのですが、馬って金額がいくらかかるかわからなくて怖かったので、聞こえないふりをしていました(笑)。しかし、いつまでもそうするわけにもいかなくなり、IHRが京都馬主協会に入っているという話をしたら、「飯塚さんが会長をされている新潟が楽しいよ」と言われ、廣崎さんから飯塚さんをご紹介いただきました。その後、飯塚さんにお願いして新潟馬主協会に入会したのですが、入ったらもうビックリ。とても楽しいですね!京都も仲間が集まる楽しさはあったのですが、それとはまた雰囲気が違って、新潟は皆さんが全体で一緒に楽しんでいるという感じがします。これは他の馬主協会とはちょっと違うのではないでしょうか。それで僕の個人名義のほうは新潟に入ることにしました。
梅:個人の名義のほうはご本名と「XIAOジャパン」の馬主名の両方で走らせているのですか?
䔥:JRAの場合、個人は本名が基本だと思うのですが、「こういう名前でもいいですか?」とJRAさんに相談したら、「この形とこの形の組み合わせならいいです」と言われて、その中にあった「XIAOジャパン」という名前で登録しました。よく「法人にしたのですか?」と聞かれるのですが、法人ではなく個人で「XIAOジャパン」という名前で登録させていただいています。
梅:「XIAOジャパン」だと会社の仲間やご兄弟、ご家族で登録されていると思われる方もいると思うのですが、個人で登録されていたのですね。
䔥:意外と目立つのが好きではないので。
梅:「XIAO」というのは䔥さんのお名前ですか?
䔥:「䔥」という漢字の中国語をアルファベットで書くと「XIAO」になるんですよ。
新潟との縁を深める“トキエア”
梅:お仕事の方も幅広い事業をされておられますよね。
䔥:1961年に父が創業した㈱デジタルフォルン(旧:大洋システムテクノロジー)に、入社しました。 その頃の業務はソフトウェア開発が主流でした。20年ほど前に社長に就任して、あらゆる産業の経営にデジタルが必要となると考え、最新のトレンド技術を活用したデータ分析、DX推進をご提供しました。グローバルでは、スマートフォンが登場した2007年にAndroidの開発を進めるため、中国で中科創達(Thunder Soft)を創立し、2015年に深圳証券取引所創業板に上場しました。今では車載システムのOSにも取り組むようになり、中国で8割のシェアを持っています。 国や市場の規模が異なっても、同じ努力で市場を10倍に成長させることができると気づきました。 これからもアジアの30億人市場に行けるようなサービスを日本発で展開していきたいと考えています。 そんな中でいただいたのが、新潟に拠点を置く地域航空会社*「トキエア」設立の話でした。(*主に小型旅客機で近距離の2地点を中心に結ぶ航空会社のこと)
梅:佐渡に生息する「トキ」の名前がついていますよね。このお話は新潟馬主会と関係があったのですか?
䔥:いえ、たまたまちょうど新潟だったのです。僕は元々、学校で事業用航空操縦士の免許を取得していたので、トキエアの長谷川政樹社長が故郷の新潟に航空会社を作りたいと国土交通省の方に相談されたときに、飛行機のことがわかっていて、海外事業を展開している人物として僕の名前が挙がったらしく、長谷川さんに「ご協力いただけませんか」と相談されてできたのがトキエアなのです。
梅:新潟のご縁が深まっていった感じですね。
䔥:航空会社をつくることになり、新潟県知事からも「ありがとうございます」と握手されたので、これは本格的にやらなくちゃいけないと思うようになりました。本当に事業認可が下りるのかなと思った時期もありましたが、皆さんの想いが強くて、今年の1月末に無事就航しました。今後は海外からの観光客が3000万人から6000万人にまで増えると言われています。東京や大阪だけでは飽きるだろうし、新潟から全国に行き、また新潟に戻ってきて帰国するような形で海外の人たちがもっと日本を楽しめるようにしたいですね。新潟は結構広いですし、食べ物も美味しいですので。
䔥さんが設立に携わった、新潟市に本社を置く地域航空会社「トキエア」。
独立系航空会社が日本国内線に新規参入するのは実に14年ぶり。
今年4月26日に2路線目として新潟から仙台路線に就航し、同年5月6日には累計搭乗者数が1万人に到達した。
今後は、新潟から名古屋・大阪・佐渡へ、佐渡から東京を結ぶ予定だ。
代表馬 オセアグレイト

梅:個人馬主を本格的に始められたきっかけは。
䔥:最初に所有したのはサクラサイレンスという馬だったのですが、JRAで走らせる予定で栗東の厩舎に預けていました。ゲート試験に受かって「さあ、いよいよ走るぞ」と待っていたら、3カ月経っても走らない。「どうなったんだろう?」と弟と話していたら、骨折していたのです。その話を聞いて、うちの獣医さんに診てもらいましたが、「無理だ」と言われたのでJRAで走るのは諦めて1年半ぐらいかけて治療しました。骨折が完治してから大井競馬場で走らせたら、なんと48戦も走って、6勝してくれました。
梅:いきなりドラマがありますね。
䔥:大井ということもあってレースも毎回見に行きました。また、廣崎さんからもご自身の馬が重賞や香港のレースに出る時に呼んでいただき、見に行くうちに「なるほど、こういうものなのか」と少しずつわかってきたので、本格的にやってみようと思うようになりました。すると、廣崎さんがすぐに調教師さんに連絡を取ってくださり、馬を買うことになりました。
梅:廣崎さんに後押しされたんですね。
䔥:「ノー」とは言えなかったですね。それで一番最初にお会いしたのが矢作先生でした。矢作先生と一緒に行ったセレクトセールで馬を買うはずだったのですが、選んだ馬が高くなりすぎて買えなかったのです。せっかく先生と一緒に選んだ馬が買えなくて、僕も焦ってしまい、事前に見てない馬で選び直そうということになりました。弟と廣崎さんが前に座っていて、「おお、いい馬だね」と言ったのが聞こえたので、「いい馬なんだ」と思って慌てて手を挙げてしまった。そしたら落札してしまった。これがオセアグレイトです。
梅:他の方は手を挙げなかったのですか。
䔥:何人かいらっしゃったのですが、それでも2000万円以内で決まりました。良かったと思っていたら、弟から「何もチェックしていないのに、手を挙げたらダメだよ」と怒られて(笑)。それから馬のところに行って見てみたら、馬体の割には少し脚が細くて足首のところが弱いということがわかりました。
梅:じゃあ本当に、廣崎さんと弟さんが「いい」と言ったというだけで、手を挙げられたんですね。
䔥:その声を聞いただけで挙げました。二人は血統なども見ていたと思うのですが、僕は本当に何も見ずに挙げたという。
梅:お二人からすれば、落札されたと思ったら、お兄さんだったという。
䔥:「えっ、兄貴!?」って振り向いていましたね。脚も細いですし、これからどうしようかということになりました。矢作先生が選んだわけではないので、調教師さんを探すところから始まって、zトレーニングや牧場を決めるのも大変でした。お願いした育成先では脚元に影響しないように馬体重を30kgほど落としたり、皆さんの努力が相当あったようです。
梅:気軽に手を挙げてしまって大変なことになりましたね。
䔥:いろいろありましたが、オセアグレイトはデビュー6戦目に初勝利してくれました。その後は連勝して、翌年には迎春Sも勝ち、年末にはステイヤーズSを勝って、有馬記念にも出走しました。JRAの馬主生活を始めてすぐにこんな活躍馬に出会えて本当にラッキーでしたね。
馬主生活を代表する一頭は「オセアグレイト」。父:オルフェーヴル、母父:Bahriという血統だ。
写真は2020年1月11日 迎春ステークス(3勝クラス)を野中悠太郎騎手騎乗で快勝した時のもの。
同年の暮れにはステイヤーズステークス(GⅡ)を制覇し、
グランプリ・有馬記念(GⅠ)に出走を果たすなど、中長距離で顕著な活躍を遂げた。
梅:オセアグレイトの全てのレースを競馬場でご覧になられたのですか?
䔥:そうなんですが、ステイヤーズSを勝った時も競馬場には行っているのに、あまり印象がないんですよ。コロナの時期でパドックにも入れていないので、「ああ、勝ったんだな」という感じでしたね。ウィナーズサークルでの口取りもなかったんじゃないかな。有馬記念も多分パドックに入れていないので、出走したという実感はあまりないですね。
梅:ご覧になったレースで覚えていることはありますか?
䔥:勝つ時は結構気持ちのいい勝ち方をしてくれましたね。オルフェーヴル産駒なので、気分がいい時は連勝したりしてちゃんと走ってくれましたが、走りたくない時はずっと横を向いていましたね(笑)。
梅:やっぱりお父さんに似ていましたか?
䔥:相当似ていると思いましたね。あるレースに出た時は、輪乗りで全然違うほうを向いていて、走る気がないのがすぐわかりましたね。そうしたら案の定、二桁着順でした(笑)。
梅:そこがまた可愛かったりしますね。
䔥:ええ、すごく楽しかったですね。
思い入れのある2頭の子

䔥:オセアグレイトはその1年後ぐらいに全力を出し切ることなく屈腱炎で引退しました。愛着があったのでGⅡしか勝ってないですが、種牡馬入りをさせて、持っている繁殖牝馬に付けることにしました。頑張って走ってくれたオセアグレイトの血を次の世代に繋いでいきたいと思っていて、血統的に種付け可能な僕の繁殖牝馬にはすべてオセアグレイトを付けています。
梅:何頭付けられたのですか?
䔥:5頭ほどですね。先ほどお話ししたサクラサイレンスにもオセアグレイトを付けています。思い入れのある2頭の子なので、生まれてくるのが待ち遠しいですね。生産をするようになってわかったのですが、競走馬って生まれてくるだけでも大変じゃないですか。それをレースに出られるようにして、レースに出て勝つなんて、本当にすごいことなんだなと思いますね。

「サクラサイレンス」は、父:オレハマッテルゼ、母父:フォーティナイナーという血統だ。
写真は2018年8月17日に大井競馬場で行われたC3クラスを優勝した時のもの。
2016年の10月にデビューし2021年の4月までコンスタントに走り続けた、䔥さん思い出の一頭だ。
梅:馬の生産の方にも力を入れておられるのですか。
䔥:最近は馬の価格がどんどん高くなっていますので、繁殖牝馬を持って生産した馬を走らせることもするようになりましたね。繁殖牝馬セールで社台のプレミアステイタスという馬を購入したのですが、この馬に種付けをして3年目に生まれたのがオセアバトルプランという馬でした。これが昨年デビューして1勝し、今年に入って2勝目を挙げてくれました。自分で作った馬が2勝もできるなんて思いもしなかったので、このことも嬉しかったですね。
梅:競走馬を購入するのとは、また別の喜びが。
䔥:それぞれ楽しみがどこにあるかの違いになってくると思いますので、バランス良くできればいいですよね。1歳馬を買って、レースに出てくるのを待つのも楽しいのですが、自分の馬として何勝かしてくれた馬同士でまた新しい子供が生まれて、それがまた少しでも活躍してくれれば、これも素晴らしい楽しみ方なのかなと思います。
梅:買った馬を走らせて、自分で配合を考えて生産した馬も走っている。まさに二つの楽しみ方を実践されていますね。
䔥:気がついたら、一歩ずつそうなっていましたね。最初は競馬場に行ったこともなく、馬券も買ったことがなかったところから始めたのですが、少しずつ経験して「これはいいな」「これはちょっと嫌だな」というものを取捨選択しながらやっていたら、だんだんと自分の形になっていったような気がします。
梅:本腰を入れて始められてから7〜8年ですよね。すごいです。
䔥:馬をやる前に知り合いの方からいろいろとアドバイスをいただいたのですが、皆さんやり方が違うし、馬の楽しみ方がそれぞれあるんだと感じていたので、「僕は僕なりのやり方でいいんだな」と思ったことがベースになっていますね。馬の選び方もそうなのですが、僕はあまり馬を見る目がないので(笑)、そこは今でも弟に任せています。弟は何十年もやっているので、馬の形から入るんですね。「血統よりも形」というタイプで、とにかくずっと馬を見ている。で、「骨格がどうだ、どこに筋肉が付きそうだ」と分析しながら、「この馬はとりあえず1勝するだろう」と言うんですね。でもいつも2勝するとは言わない(笑)。
梅:「一つは勝つぞ」と。
䔥:もちろん、勝つのは重要なことなんですけどね。まずそれで選びます。よく「血統は爆発する」と言いますが、血統だけで走るわけではないと思います。骨格が良くていい形になって、その馬の気質も良くて。あとはその気質の問題になってきた時に血統が入ってくるという考え方らしいのです。それをベースにして、僕もいろんな方の考えを聞いたりします。なので、弟が考えて、皆さんの意見を聞いて、最後にこれにしようと決めて、僕が競る。自分でいうのもなんですが、コーディネートをしている感じでしょうか。
梅:ご自身や弟さんの好みや傾向はありますか?
䔥:なぜかわからないのですが、結局オルフェーヴルが多くなっていますね。オセアグレイトの愛情や影響のような気がしないこともないんですが、この血統にパッといっちゃいますね。結果、この血統が増えてしまう(笑)。
人なくして馬はなし
梅:これまでの馬主生活を改めて振り返るといかがですか?
䔥:楽しいですね。馬を選ぶというよりも、人間関係をつくっているという感覚の方が強いです。だから、いろんな方からアドバイスをいただき、話し合いながら選んだ馬がレースで走るという感じです。これって、海外でやっている事業とも似ているんです。初めて行ったところで水先案内をしてくれたり、その国で一緒にビジネスをやろうと言ってくれた人たちと関係を徐々に築き上げて、その関係の上に事業が乗ってくる。調教師さんや牧場との関係も同じで、長い時間をかけて皆さんと築き上げてきました。
梅:オーナーは人間関係というものをとても大事にされているんですね。
䔥:そうですね。「人なくして馬はなし」だと実感しています。

Afterword
梅:馬主としての目標を教えていただけますか?
䔥:自ら生産した馬が勝つのは大きな喜びですが、その延長線上に重賞やGⅠの勝利があると嬉しいですよね。
しかも赤字にならずに黒字だったら最高です(笑)
STAFF
direction・edit|Kenichi Hirabayashi(Creem Pan)
Writer|Kakeru Hori













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