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一般社団法人

新潟馬主協会

Owners Voice Vol.06 藤田 岳彦

  • 1月26日
  • 読了時間: 14分

気鋭の馬主の声を聞けるOwner’s Voice。

6回目の今回は一橋大学の名誉教授であり、

確率論などの数学の分野でも名高い

藤田岳彦氏をお招きし、

競馬との出会いや馬主になるきっかけ、

氏ゆかりの血統など様々な話題について

たっぷりと語っていただきました。

聞き手はフリーアナウンサーの梅田陽子氏です。


右:藤田岳彦/左:梅田陽子(フリーアナウンサー)


藤田 岳彦

2013年に中央競馬の馬主資格を取得し、新潟馬主協会に入会。

2016年に共有馬ルグランシェクルで中央初勝利を記録、

2022年にはストキャスティークがフローラSに出走して

所有馬初の重賞出走を果たした。



馬主としての喜びを知った共有馬制度


梅:さっそくですが、まずは新潟馬主協会に入った理由を教えてください。


藤:知人の勧めです。東京在住なので当初は東京馬主協会に入ろうとしたんですが、当時は個人所有馬がいないと入会できないとか、共有でも代表じゃなきゃいけないとか細かい規定があって入会が厳しい状態でした。そんな時、社台オーナーズでご一緒だった方に相談したところ、新潟馬主協会を勧められ、2013年に入会しました。


梅:ご紹介で新潟馬主協会に入会して十数年ということですが、藤田オーナー自身は新潟馬主協会のどんなところが良いところだと思ってらっしゃいますか?


藤:こぢんまりとはしていますが、その分、和気藹々とした雰囲気がありますね。懇親会や懇親旅行なども、とても楽しく参加させていただいています。また、会員10人で1頭の競走馬を所有する「共有馬制度」という制度がずっと続いているのも良いところですね。


梅:藤田オーナーも、その「共有馬制度」を利用したことがあると伺いました。


藤:2015年に、私がその代表になりました。JRAブリーズアップセールに行って競り落としてきまして、ルグランシェクルという名前でデビュー。平地と障害で1勝ずつ挙げてくれました。


梅:実際に利用してみていかがでしたか?


藤:元はずっと社台オーナーズの10口でいいかなぁと思ってたんですが、自分の名前で、自分の勝負服で走らせられるというのを経験すると、その良さがわかりますね。この制度は馬主初心者に馬主としての喜びを体感してもらうことができる、素晴らしい制度だと思いますよ。私自身、この共有馬制度を利用してから「もっと馬主としてステップアップしたいな」と思うようになりました。




幼少期から夢見た職業“数学者”


梅:やっぱり自分の勝負服というのは特別なんですね。さて、藤田オーナーのご経歴についても、お話を聞かせてください。多くの方がご存じかとは思うんですが、京都大学ご出身の数学者でいらっしゃいます。


藤:そうですね。灘中学校から灘高校、京都大学の数学科を卒業しています。中学受験をするわけなんですが、塾には行かずに過去問集などを独学で解いていたら灘中の過去問をすぐに解き終わってしまったんです。なので、暇つぶしに高校数学の問題を解いてみたらそれが面白くてね。だから受験勉強そっちのけで数学の問題ばかり解いて、小学校6年生の時には数学者になろうと思っていましたね。


梅:すごい! まさに数学界の神童ですね(笑)。その後は、京都大学に入学なさって学者への道に進まれるわけですね。


藤:そうなります。京都大学を卒業して、そのまま大学院に進みましたが、1981年に博士課程を中退して助手になりました。その後は京都大学講師を経て、1991年に一橋大学に転勤となり、2011年からは中央大学で教壇に立っています。大学の講義が被ってセールに行けないこととかもあるんですよね(笑)。


梅:確かに、その時はどうされてるんですか?


藤:実は家内も馬が好きでして、何年か前のブリーズアップセールの時は「代わりにやっておいて」と頼んだら入札していましたよ(笑)。 一緒にセリに行く機会もありますが、「なんで降りるの?」なんてことを言われるくらいです。


セリには奥様と一緒に参加することも。

馬体の好みについては、「特にない」と語る藤田さん。

購入する馬は自身の直感で選んでいる。


梅:奥様もかなり馬がお好きなんですね。


藤:昔、谷川牧場のご子息が家内の実家の向かいに住んでいたらしく、小学校6年生の時には1ヶ月くらい谷川牧場に行って自由研究なんかもやってたと聞きました。私が競馬を好きになったのには、少なからず家内の影響もあると思います。


梅:谷川牧場で自由研究! そんなご縁があったんですね。25歳から京都大学、一橋大学、そして中央大学で学者、教育者として歩まれて45年。そして来春(2026年3月)、ついに定年を迎えられると…。


藤:はい、来春で70歳の定年です。個人的には最終講義をこそっとやって引退しようと思っていたんですが、仲間たちが色々と退任記念イベントをやってくれるようです(笑)。2025年5月31日には、ばんえい競馬で「藤田岳彦教授古稀記念」を協賛してくれたので、仲間たちと一緒に現地で楽しみました。


かつての教え子や同僚、仲間たちからの人望も厚い。

還暦のお祝いにも多くの知人・友人が集まった。


梅:日本の数学者としては、まずお名前が挙がるのが藤田オーナーだと思いますが、後進の育成にも力を入れていらっしゃいますね。


藤:才能のある若い子たちを発掘するために、公益財団法人数学オリンピック財団の理事を務めています。国際数学オリンピックは毎年7月に行われますが、もう20年くらい、生徒たちに同行して海外まで行ってますね。最近はネットの普及もあって、一部の私立校だけでなく、地方の公立高校の子たちも頑張ってくれています。


梅:そういった数学者としての経験の中で、何か競馬に活きることはありますか?


藤:競馬も確率ですからね。オッズの逆数がその馬の勝つ確率で、そこにどういったバイアスがあるかというのを見極めるのが大切です。最終レースバイアス、有馬記念バイアスとかね。グリーンチャンネルの「競馬場の達人」(各分野の有名人が競馬場の自身の馬券の楽しみ方を紹介する番組)に出演した際は、冒頭で「競馬と確率」という講義をさせていただきました。ただ控除率が20〜30%ありますから、それを打ち破るのはなかなか難しいですよ(笑)


梅:競馬の達人では見事にプラス収支で終わられてましたね。なるほど、バイアスですか…それは数学者ならではの視点かもしれないですね。そもそも数学者である藤田さんが馬主になるきっかけはとは、なんだったのでしょうか。


大学教授として勤める一方、保険会社などと連携して

アクチュアリーという専門資格の講義を行うほか、

保険数学の分野でシンポジウムやフォーラムも開催。


麻雀仲間に誘われて競馬の世界へ



藤:もともと競馬には興味がなくて、昔は麻雀の方が好きでした。たまたま麻雀仲間に競馬好きがいたんですが、私が京都大学から一橋大学へ転勤になったタイミングでその人も調布に転勤になりまして、それで東京競馬場に行くようになったのがきっかけです。それが1991年頃、年齢にして35,6歳でしたから、興味を持ったのは遅い方だと思います。


梅:競馬のどのあたりに惹かれていったのでしょうか。


藤:競馬場に行くようになる前に、ユニオンオーナーズクラブのカタログを見せられて入会を勧められたことがありました。結局、その時は入会しなかったんですが、最後まで悩んだ2頭のうちの1頭がエリザベス女王杯を勝つサンドピアリスだったんです。それを後から知ってすごく悔しい思いをしましてね…。それで「馬券だけじゃダメだ」と、社台サラブレッドクラブ、サンデーサラブレッドクラブ(当時のダイナース愛馬会)に入会しました。初めての出資馬はハナノメガミという馬で、オークスにも出走してくれました。オークスは9着だったんですが、当時は賞金が8着までだったのでちょっとの差でGⅠの賞金を逃すことになってすごく悔しかったのを覚えています。ハナノメガミは、最終的には通算4勝を挙げてくれて9,000万円くらい稼いでくれましたからそれが最初の成功体験で、そこから競馬に惹かれていきました。


藤田さんが2015年に共有馬として所有したルグランシェクル。

翌年の中山開催で戸崎騎手を背に1番人気に応え、初勝利を記録。

障害でも勝利を挙げるなど、馬主の喜びを教えてくれた1頭だ。


梅:クラブ出資1頭目からオークス出走ですか。さすがの相馬眼です。


藤:いや、決してそんなことはありません。2001年からの5、6年には、暗黒時代も経験しました。ハナノメガミの子どもにも出資しましたが、年間1,2頭は出資しながら全く勝てなくて悲しかったですね。その時期を打開してくれたのが鈴木伸尋厩舎のワインアドバイザーという馬でした。馬というのは、丈夫というのがすごく大事ですが、このワインアドバイザーは50戦して3勝してくれたタフな馬でしたから、その下の子たちも出資しようと決意。そしてその5歳下の半弟が、グレープブランデーなんですよ。


梅:なるほど、そこでグレープブランデーが登場するわけなんですね。何でもそのグレープブランデーが馬主になるきっかけだとか。


藤:そうなんですよ。2011年から中央大学に勤めるようになり、その段階ですでに馬主になれるだけの収入などはあったんですが、面倒くさくて手続きをしていなかったんですね。そんな折、2013年にグレープブランデーがフェブラリーSを勝ってくれて、その祝勝会が京都で行われました。40口の馬ですからそこまで大きな会ではなく、会の最後に1人ずつ前に出てスピーチをするということになったのですが、GⅠを勝って嬉しかったし、お酒が入っていたのもあって「これを機会に馬主登録をします」と宣言してしまって…(苦笑) その会があったのが4月で、5月には申請して秋から馬主になりました。一口で暗黒時代を経験しない馬主はいないでしょうが、こういう「良い時の楽しさ」を知ってるからこそやめられないんですよね。


梅:GⅠ勝利からあっという間に馬主になられたんですね。グレープブランデーに背中を押されて馬主になられて10年以上が経つわけですが、思い出の馬がいれば教えていただけますでしょうか。


一口馬主についても複数クラブに出資しており、

GⅠの舞台で活躍するような馬とも出会ってきた。

先日は出資馬の1頭であるダブルハートボンドが

見事にチャンピオンズCを制した。



思い出の馬たちはゆかりの血統馬


藤:1頭はストキャスティークです。2019年のセレクトセールに、かつて社台サラブレッドクラブで私が命名したサンクボヌールという馬の子どもが上場されていまして、今じゃ考えられないですけど、初仔だったこともあってリザーブが600万円でした。大竹正博先生にも見ていただいたら「これはなかなかいいんじゃないか」というので、競って1080万円で落札。私は確率論が専門の数学者ですから数学に関係した名前をつけようと思い、フランス語で「確率論的」という意味のストキャスティークという名前をつけました。少し小さい馬でしたが、2歳8月の札幌でデビューして3着に頑張ってくれたので「これはいけるな」と思いました。


梅:ストキャスティークは、秋に2戦して翌年2月の東京開催で待望の初勝利でした。


藤:ゴールドシップ産駒ということもあって距離を延ばして東京の芝2400mで初勝利を挙げてくれて、春にはフローラSにも出走しました。夏の新潟で3着に好走した際に、その時騎乗していた菅原明良騎手から進言を受けて9月の中山芝2500mで2勝目を挙げるんですがレース後に骨折してしまって、それ以降悔しい競馬が続きましたね。今思えば、中1週で出したのが良くなかったのかな。2勝目で2着に負かしたのが、先日(2025年11月9日)アルゼンチン共和国杯を勝ったミステリーウェイです。あの怪我がなければ、もっと上に行ける馬だったんじゃないかなと思ってるんですよ。


梅:それは悔しいですね。ただ、ご自身が命名した馬の子どもを所有なされて、その馬が活躍してくれるというのは、何か運命的なご縁があるんでしょうね。ストキャスティークのきょうだいもお持ちだとか。


藤:ストキャスティークの活躍もあってか、その近親馬たちはGⅠレーシングで続けて募集されることになりました。そんな中、1頭だけ募集されない馬がいたので、新潟馬主協会で仲良くさせていただいているGⅠレーシング代表の吉田正志さんに聞いてみたところ、ボーンシストで募集を取りやめたとのこと。大竹先生に確認してみると、ボーンシストは治る可能性が高いというので、再度、正志さんに話を聞いて交渉し、2歳9月頃に庭先取引で購入させていただきました。今度は「数論的」という意味のフランス語でアリスメティークと名付けました。まだ現役ですが、これが思い出の馬の2頭目です。


梅:まさにオーナーゆかりの血統ですね。アリスメティークはどんな馬でしょうか。


藤:アリスメティークは大竹先生のお気に入りのようで、よく「かわいいかわいい」と言ってくれてます。身体の軸がブレない綺麗な走り方をする馬で「教科書に載せたい走方」なんて言ってくれているみたいですね。ボーンシストの影響で初出走は遅く、3歳2月に既走馬相手の未勝利戦で7着。ただ末脚は目を見張るものがありましたし、大竹先生も2戦目からはルメール騎手を起用という気合いの入りよう。2戦目は2着、3戦目は出遅れや距離不足もあって4着と足踏みはありましたが、8月の札幌で初勝利を手にしてくれました。あれは感動しましたね。


梅:8月の未勝利戦だと勝ち上がりまで残された時間も余裕はありません。喜びもひとしおだったと思います。


藤:そうなんですよ。地方転出からの出戻りなんかも考えましたが、血統的にも芝馬で、ダートは厳しいんじゃないかなと思っていました。だから、本当に良かったです。スタートも良く、道中も馬群の中団くらいにつけることができて、それまでの後方待機策とは違う競馬をすることができました。4コーナーでは勝ちを確信できる安心のレースぶりだったんですが、それでも叫びましたよ(笑)。


梅:アリスメティークは11月に福島で復帰して4着という結果でしたが、いかがでしたか。


藤:初勝利後に思ったほど馬体重が戻らなかったので一旦放牧に出して復帰は秋になりました。もともとは東京の予定だったんですが、右トモが少し緩いので左回りよりも右回りの方が良さそうということで、出馬投票の朝に急遽福島へ変更になりました。ペースが遅かったのでもう少し前目につけてくれたらなと思っていたところで、後方の馬に上手く捲られて出し抜けをくらうという悔しいレースでしたね。でも良い脚は使ってくれましたよ。次走は12月の中山を視野に入れていたんですが、やはり馬体重が戻らないので一旦放牧して年明けの中山を考えているようです。


梅:今後も期待がかかりますね。


2200mへのお墨付きをもらったアリスメティーク。

大竹調教師も大変気に入っているようで札幌での初勝利のあとも

ルメール騎手に「この子かわいいでしょ」と自慢していたそう。


藤:大竹先生も大事に使えば大きいところを狙える馬と言ってくれていますし、ストキャスティークは、目先の勝利にこだわって中1週で使って骨折してしまい、その後が残念な結果になってしまいましたから、それを教訓にして馬に合わせた丁寧なレース選択をしたいと思っています。ちなみに、その下は社台オーナーズの10口馬なんですが、それも持っています。サンクレゾンという名前の牝馬で、おそらくは年明けくらいのデビューになると思います。


梅:お姉さんであるストキャスティークの経験があってこそですね。アリスメティークのさらなる活躍とサンクレゾンのデビューを楽しみにしております。さて、思い出の馬たちの活躍ももちろんだとは思いますが、改めて馬主になられて嬉しかったことがあればお聞かせください。


藤:そうですね。まぁやっぱり馬たちの活躍が一番嬉しいですよ。私の場合、個人所有馬は多くないですから毎週走るなんてことはないですけど、一口馬主の方は50〜60頭は出資していますので、ほぼ毎週必ずどの馬かが走ってくれます。個人所有の馬が勝つのはめちゃくちゃ嬉しいですし、クラブの馬たちも口取りとかができるとやっぱり嬉しいです。馬以外の点でいうと、新潟馬主協会の会員の皆さんは本当に良い方がたくさんいらっしゃるので、馬を通じて仲良くさせていただけるのも有り難いです。友人になって、旅行など様々な交流ができるので、嬉しく思っています。




Afterword


梅:ありがとうございます。ここまでたくさんお話を聞かせていただきました。最後に藤田さんの今後の目標を教えてください。


藤:そうですね、まず小さな目標としては、特別戦を勝って表彰を受けることです。園田などの所有馬では、メインや特別戦を勝って表彰台に上がったことがあるんですが、中央ではまだ経験がありません。ぜひ、アリスメティークで特別戦を勝って表彰されたいです。大きな目標としては、その表彰を重賞で受けたいですね。もっと大きい目標は、もちろんGⅠで表彰台に立つこと。アリスメティークの初勝利は札幌の2000mだったんですが、引き上げてきたルメール騎手が「2200mでも大丈夫」と言ってくれたので、これは暗にエリザベス女王杯にいける馬だと言ってくれているんだと大竹先生と話したんです。自分にゆかりのある血統馬でこういう夢を語れるんですから、これからがすごく楽しみです。


STAFF

direction・edit|Kenichi Hirabayashi(Creem Pan)

text|Sanechika Hidema(Umafuri)

proofreading|Kishin Ogata(Umafuri)

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