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一般社団法人

新潟馬主協会

Follow a dream Vol.02 飯塚知一×澤井 靖子×沼田 恭子

更新日:10月6日

新潟馬主協会の飯塚知一会長が競馬や馬を愛してやまないゲストを招いて対談する「フォローアドリーム」。第二回のゲストは、ダーレー・ジャパンの澤井靖子氏と、引退馬協会代表理事の沼田恭子氏をお迎え致しました。澤井氏と沼田氏には国内外の引退馬支援や実情やエピソードなど盛りだくさんにお話しいただきました。さらに飯塚会長は、引退馬協会所有馬となり乗馬として第二の馬生を歩み始めたかつての愛馬ルックトゥワイスと再会。彼とともに競技会に出る可能性や、これからの引退馬支援構想について時間の許す限り語り合いました。司会は競馬番組でキャスターを務める梅田陽子アナウンサーです。


左から、梅田 陽子/飯塚 知一/澤井 靖子/沼田 恭子
左から、梅田 陽子/飯塚 知一/澤井 靖子/沼田 恭子

競走馬のセカンドキャリア


梅:今回からは引退馬にテーマを絞ってお話を伺っていきたいと思いまして、引退馬に造詣の深いお2人をお招きしたわけでございます。お1人目はダーレー・ジャパンに所属し、海外の引退馬事情にも詳しい澤井さんです。澤井さんは普段はどういったお仕事をさされているのでしょうか?


澤:私10年間、当歳馬と繁殖牝馬を担当して、仔馬の面倒をみてきたのですが、ここ3、4年は会社のCSR部の方を担当しております。


梅:CSRといいますと、皆さんへの普及活動やイベント活動をされていると思うのですが、イベントではどういったことをお話されていたり、どのような活動をされているのですか?


澤:何点かあるのですが その中の1つが引退した競走馬の処遇をより良いものにしていこうことがありまして、いろいろお話をさせていただいている感じです。


梅:ダーレーさんといえば、世界というか海外のということになりますね?


澤:そうですね。私どもは6か国に牧場や厩舎を構えさせていただいております。


梅:そしてもうお一方が認定NPO法人引退馬協会代表理事の沼田さんです。国内の引退馬支援といえば沼田さんと、お名前をご存知の方も多いかと思うのですが、いつ頃からこういった活動を始められたのですか?


沼:1997年からですので、23年くらい前からやっております。最初はNPOではなく、イグレット軽種馬フォスターペアレントの会というグループのような形で始めたのですけど、引退馬って何ですか?とよく言われました。


飯:世間にクローズアップされてきたのはつい最近ですから、その頃は引退馬という名前を認識していた方はかなり少ないと思いますよ。


梅:沼田さんも当時は大変でしたよね?


沼:でも競馬ファンの中には、引退したらどうなるんだろうとそこをすごく気にしている方が、少なからずいたんですね。ちょうどインターネットが普及した時期にあたっているのですけど、そこで仲間が集まってきたのが1番大きなきっかけだったかもしれないですね。


飯:現役の時にファンだった方など、そういう人たちが引退した後追いかけていくということですよね。


沼:そうですね、そこから始まったと思います。


梅:初期には具体的にどのような活動をされていたのですか?


沼:テレビか競馬場でしか馬を見たことがない人ばかりでしたので、まず馬を触って温かいよとか、生きているよというのを皆さんに知っていただくところからかなと思って、そういう方々に月に1回ほどのペースで集まっていただいて、ふれあいタイムをやっていました。


飯:JRAでも重賞勝ち馬の支援は、以前からやっていたんですよ。グレードレースを勝った馬にはファンの方も多くついていますから、そういう馬を繫養してそこへファンが見にきてくれればいいのではないかというところから始まったのではないかなと思います。


梅:最近はこちらのイグレットさんに、会長とゆかりの深い馬がいると伺っているのですが?


飯:ルックトゥワイスです。お蔭様で目黒記念という重賞も勝たせてもらったので、覚えていらっしゃる方も多いかと思います。


梅:2016年に栗東の藤原英昭厩舎からデビューですから、今7歳ですね。6勝という成績を挙げて、2019年のジャパンカップを最後に引退をしました。そこからイグレットに来るまでの経緯を教えてください。


飯:競走馬を引退させると僕はだいたい、乗用馬に転向するというのが道筋なんですよね。ですけども、競走馬と乗用馬というのは元々仕事が違うわけですよ。それを子供や初心者の方でも乗れるような安全安心な馬に作り変えなければいけないわけで、乗馬クラブさんとしても人手もかかりますし、時間もかかる、お金もかかるわけですよ。そうすると流通がうまくいかない。それが障害になってうまくいかないケースが多いのですよね。それをJRAさんが3か月ほどで乗馬に転用できるまでの初期の馴致をやってくれました。


梅:JRAではその取り組みをいつ頃からやっているのですか?


飯:今年初めてです。ルックトゥワイスを試験的にリトレーニングしてもらったのですが、これがうまくいったら、今後も続けていけるのではないかと。続けていければいいなと考えています。


梅:ということは、ルックトゥワイスはうまくいった例と言えますよね?


沼:言えると思います。ルックトゥワイスって結構ヤンチャな馬だったと聞いていたんですけど…。


飯:はい、その通りです(笑)。いやあ大変だったんです。デビュー戦はゲートに入らず、暴れて5馬身出遅れて大変した。


沼:ですからルックトゥワイスを本当にドキドキしながら待っていたのですけど、馬運車から普通に降りてきたんです。JRAさんにグランドワークを3か月やっていただいたて、それがすごくきいているといいますか、そこでちゃんとお勉強してきたなという感じがしましたね。思っていたより、大人しかったです。


梅:現在の様子をご覧になっていかがでしたか?


飯:今日再会して、非常に大人しく可愛らしく変身しておりました。


梅:こちらに来て大きく変化をしたという感じですか?


沼:でも根本には(元の気性は)あるなと私は思っています(笑)。無理やりではなくちゃんと理解をした上で何かをしたいという気持ちをしっかり持っていると感じます。お手入れの時なんかも、えっ?と思うようなことが時々あります(笑)


梅:澤井さんが所属されているダーレー・ジャパンさんでは、引退馬に対してはどうされているのですか?


澤:弊社はリホーミングプログラムというのを設けておりまして、何らかの理由で競走馬のキャリアを続けていけない馬たちに次のキャリアへ進んでもらうために、治療やリハビリ、去勢などの準備を弊社の方で済ませて、協力いただける乗馬クラブや大学馬術部に寄贈させていただいております。


梅:リホーミングプログラムを終えてからの進路はどのように選択していくのでしょうか?


澤:私がいつも頭を悩ませるところなのですけど、それぞれ馬によって性格も全然違いますし、持っている能力も違います。求められるもの、例えば障害馬術の能力がある馬がほしいとおっしゃる方もいらっしゃいますし、逆にすごく穏やかで何も気にしないような馬がほしいとおっしゃる方もいらっしゃいます。いつどの馬が上がってくるのかというのもわかりませんので、前もってお声がけ頂いて、最適な馬が出てきた時にご連絡させていただくような形を取っていますが、適材適所に馬を送ることがなかなか難しいですね。


梅:セカンドキャリアには乗馬に転用する場合が多いのかなと素人的には考えてしまうのですが、そのあたり沼田さんはどうなんでしょうか?


沼:引退馬協会にも再就職支援プログラムというのがあって、(引退馬を)トレーニングして譲渡しています。競走馬の何パーセントくらいが乗馬に適性があるのかわかりませんけど、適性のない子はいると感じます。そういう子は、そこにいてくれるだけで良いよというな牧場さんに行ったり、個人的に引き取られる方もいらっしゃいます。


梅:会長も馬を何頭かお持ちなので、その馬たちのその後を考えることが多いと思うのですが?


飯:そこが1番難しいところなんですよ。例えば乗馬でお願いしますと言っても、これはダメですねというケースもありました。そういう時は放牧地を持っているところにお願いすることになります。九州などに昔牛の放牧地だったような場所を自治体から安く借り上げて、何十頭もの馬を自由に放牧している牧場もあるんです。そこに行く馬はのんびりして幸せだと思いますよ。


梅:沼田さんと澤井さんは、ある取り組みをされていると伺ったのですが?


沼:全国乗馬倶楽部振興協会というところが主体となってやっている委員会なのですけど、競走馬のリタイア後のセカンドキャリアを考えていこうという会です。澤井さんがやっていらっしゃる海外から先生を呼ばれての講習会や、先ほど話をしたグランドワークのようなことを教えてくださる方の講習会、そしてRRCという競走馬から乗馬に転用されて3年以内の馬たちの競技会ですね。これは始まって3年目になりますが、賞金をつけてかなり盛り上がってきています。


梅:講習会というのは、人材を育てるということでしょうか?


澤:馬たちを再調教することを促進するという意味ですね。弊社は6か国でリホーミングプログラムですとか、ライフタイムケアと題しまして引退した馬たちにできる限り力を尽くそうということで、様々な取り組みをしておりまして、いろいろな繋がりがございます。その中に総合馬術の選手でサラブレッドでオリンピックに行かれた方なのですけど、非常に教えるのが上手で馬もよくわかっているのでお呼びしました。


梅:今後、全国乗馬倶楽部振興協会の取り組みに関わっていく中で、ダーレーさんでやってみたいことはありますか?


澤:少しでも力になれればなと思っておりますし、世界6か国に拠点があるというのが私共の強みですので、そういったコネクションを活用していただければと思います。


飯:そもそも世界的引退馬の余生を考えましょうということを始められたのは、ダーレーさんですからね?


澤:そうですね、5年ほど前から協力して各国競馬主催者さんや調教師さんですとか、いろいろな方にお声がけをして、勉強会を開いたりしています。


飯:こうして世界から広がってきましたが、日本はこれまで引退馬にはあまり関心はなかったと思います。けれども日本がパート1国に昇格して、国際会議では必ず話題に出るのが引退馬のその後をどうするのかと、あなたの国はどういうケアをするのか、あなたの国はどういうシステムを持っているのですかという話題が必ず出るんですよ。その時、日本の場合は少し遅れていたものですから、これからは積極的に取り組まないと世界に取り残されてしまうなという危機感から最近非常に力を入れ始めたのだと思います。


梅:競技会の話に戻しますけど、飯塚オーナーのルックトゥワイスは競技会に出場するかもしれないですよね?


沼:可能性あります。飛越は練習中ですけど、良い感じできれいに飛んでいますね。


梅:ルックトゥワイスが競技会に出場する時のライダーというのは…?


飯:私が(笑)、やらさせていただきます。



国内外の引退馬支援事情


梅:現在の日本での引退馬の支援について、どのようにお考えですか?


沼:先ほどお話をしたRRCの競技会も含めて、引退馬に対して目がすごく向くようになったことは確かです。ただ年間約7000頭生まれてくる馬を全部助けますよというのは今は絶対に無理なんですね。直接のファンだったり、馬主さんや調教師さんの場合もあると思いますけど、そういう方々が「この馬」というふうに思われた馬しか助けられないのが現状です。そのように本当に自分が大切にする馬を次のステージに繋げることはできるようになりつつありますね。


梅:JRAの引退競走馬の検討委員会にも会長は参加されていますが、今のお話を受けていかがですか?


飯:全く仰る通りで、現実を見ると7000頭生まれて、全頭を救うというのは物理的にも金銭的にも絶対に無理です。はじめの一歩になるかどうかはわかりませんけれども、馬主の立場としてですけど、活躍してくれて思い入れのあった自分の馬に関してはやはり最後まで面倒をみていきたいなという気持ちはあります。現実に今、鵜川の牧場にシャドウクリークというのがいるのですが、もう27歳くらいで、ずっとそこで余生を暮らしています。


梅:馬の引退後について知らなかったり興味がないという馬主の方もいらっしゃるのでしょうか?


飯:いるでしょうね。やはり競走馬から入った人というのは、その後のケアのことは考えていないです。考えたとしても自分がお金を払って馬の面倒を何年もみるというのは、経済的にも負担が大きいんですよ。そういうことも含めて馬主さんの引退馬に対する温度差は大きいですね。


梅:馬の寿命は?


沼:最近長くなって30歳くらいまで生きる馬が増えましたね。


梅:引退してから余生の方が長いですね。


飯:ですから馬主の立場として、そういう気持ちを少しでも持ってもらう人が増えてくれればいいなと思っています。


梅:沼田さんもそのあたりそう思われますか?


沼:そうですね、競馬を引退するのが5歳だと考えても、その後の25年を余生にするのは…。もう少し馬も活躍できるかなと思っていて、最終ステージを送るのは25歳を過ぎてからでもいいのではないかなと。その間は自分の力で頑張って乗馬などのお仕事ができれば、その馬にとっては良い一生ではないかなと私は思いますね。だから馬主さんが何でもかんでも全てやらなければいけないと私は思ってはいません。ただ乗馬になるまでにはいろいろな準備が必要ですし、そこに(馬主さんが)参加していただけるともっとたくさんの馬が次のステージに行けるのではないかなとは思っています。


飯:今僕が提言しているのは、各トレーニングセンターに引退馬の窓口を設けてそこから申し込みがあった馬主さんの馬は乗馬クラブなり、大学の馬術部に行けるようなシステム。本当にオーナーは(引退後どうしたら良いのか)わからない方が多いと思うんですよ。だいたい調教師さんに紹介してもらってお願いしますということになるんですけど、全頭調教師さんが行先を決められるわけではないので、相談窓口を作ることによって、馬の行き先の間口が広がってほしいという考えですね。JRAもこれからやるつもりでいますし、まず知ってもらうことが第一かなと思っております。


梅:澤井さんに伺いますけど、海外の引退馬事情は日本と比較してどんな感じなのでしょうか?


澤:競馬を開催している国すべてで競走馬の引退後の課題はあって、それぞれ国によって事情が全然違いますので、なかなか比べることは難しいです。例えばヨーロッパでは、サラブレッドを乗用馬に転用することがあまりポピュラーではないんですね。乗用馬として生産されている馬もたくさんいますので、その部分がネックになっているんです。日本も含めてですけど、オーストラリアやアメリカはサラブレッドを乗用馬に転用することが昔から行われてきました。今は生産をされていますが、以前は用馬があまりいなかった、生産していなかったという事情もあります。


飯:日本の場合は(ヨーロッパと)逆で乗用馬が少ないですし、ほとんどの乗用馬は競走馬からの転用なんですよ。そのあたりが澤井さんがおっしゃったようにヨーロッパと違う点かと思いますけどね。ただヨーロッパも、乗用馬としてサラブレッドを取り入れようという動きが進んでいますよね?


澤:はい。競馬主催者さんを中心にいろいろな方が努力されています。


梅:比較をするのは難しいでしょうけど、海外の良い点があったら教えてください。


澤:日本が学べることはたくさんあって、ヨーロッパもアメリカもオーストラリアもなんですけど、セラピーにサラブレッドを活用したりですとか、馬を転用する技術や馬の管理の方法ですね。文化の違いとがあるのかもしれないですけど、海外は少し進んでいる部分がありますので、日本が学べることがあるのではないかなと思います。


梅:セラピー等は、今の日本はどうなのでしょうか?


沼:馬のセカンドキャリアというと、乗馬一辺倒なところがありますけど、障がい者乗馬や自己啓発的なことに馬を使うなど、そういう方向も出てきていると思いますね。ただ実験段階に近いところがまだあるという感じはします。


梅:今たくさん馬がいる風景の中で、馬といると落ち着くということを正に実感しています。


飯:日本は今うつ病の患者さんが多くなっていて社会問題になっていますよね。そういう方たちが馬の世話をすることによって、心が癒されていくとかそういう結果は出ているのですが、医学的なエビデンスがないんですよ、残念なことに。ですから、それに関しての資料作りも行っています。あと障害者乗馬にしても。麻痺のある子どもたちが馬に乗ることによって、足が動いてくるということがあるんですよ。馬の振動や温かみなど、馬には何かあるのでしょうね。それが科学では証明されていないので、大々的に国からの補助の申請という方向に持っていけないんです。将来は科学的なエビデンスをちゃんと作ってやっていきたいなと思っています。


梅:引退した後の馬がどこに行ったかも知りたいですよね?そのあたりは海外は進んでいるのでしょうか?


澤:オーストラリアが先頭を切ってそういった取り組みを始めています。ニュージーランドやイギリスもやって行きますよと言っています。ただスタートしたばかりなので、前途多難ではあると思うのですけど。


飯:だけどオーストラリアは、馬にパスポートがあるんですよ。


澤:そうなんです。2014年頃から取り組み始めているのですが、オーストラリアは。競馬から引退する時に次の行き先を必ず申告しなければいけないというルールを決めています。


飯:ただ全頭ということになると、屠畜にいくという現実もあるわけですから、そこをちゃんと受け入れられる社会というのも、(引退馬支援の)一方で我々が啓蒙していかなければいけないことなのかなと思っています。


梅:少しでも多くの馬が活躍できる場を広げていきたいですよね?


沼:さっきのお話の続きになるかもしれないのですけれども、JRAが関わってくださるようになって、1つ大きく変わったと思うのは、最後まで馬をみようという気持ちの方々がとても増えてきているということです。最後の馬生を送る場所、最終ステージと私たちは言っているのですけど、JRAが助成金を出しながら最終ステージの場を広げてくようにやっていらっしゃることはすごく意味があると思っていますね。


飯:お金がまず最初なのかなと。今JRAでは全国で68くらいの乗馬クラブを全部調べているんですよ。そこで引退馬に対してどのくらいケアしているのか、何頭ケアしているのか、どんなことをやっているのかを判断して、補助金のランキングをつけて毎年支給しているところなんです。これもはじめの一歩です。それをさらに高度化していかなければならないのですけど、その話し合いもずっと行っていきたいなと思っています。




私たちにできることは?


梅:なかなか一筋縄ではいかない難しい問題だと感じましたが、沼田さん、具体的にこれからやっていきたいこと、できることを教えて頂けますでしょうか?


沼:日本は人口に対する馬の頭数が(海外に比べると)圧倒的に少ないと思うんですよね。調べると日本は1600人に1頭くらいらしいんです。ちょっと数字が間違っているかもしれませんが、フランスやイギリスは160人くらいに1頭、アメリカは34人に1頭とか。つまりそのくらい差があるんですよ。もっと馬が身近になるような環境づくりが必要なのかなと。そうすることでリトレーニングした馬の行き場が増え、増えると更に皆さんが馬を身近に感じるという連鎖が生まれてくればいいなと思っているんです。せっかく馬を何とかしたいという方がいらしても、すぐセカンドキャリアに繋がらないもどかしさが現実的にあります。どういうことかというと、競走馬は急に引退が決まりますので、移動までに1週間しかありません、何とかしてくださいということが普通にあるんです。その時に1週間ではどうにもならないと、はっきり言えるんですね。まず(引退後に)移動してゆっくりする場所がまず決まらないんです。そう考えると、馬主さんなり調教師さんなりが、例えば3か月くらいのゆとりでもいいと思うんですけども、馬の将来を考えてそれくらいのゆとりを持って相談いただければ確実に次に運ぶことができるような気がします。


飯:それはルックトゥワイスが試験的に行った形ですよね。宇都宮(JRA馬事公苑)なのですが、そこにはスタッフもいらっしゃいますし、沼田さんがおっしゃったように3か月というのは大事なところなんですよ。ケアしてくれる場所があればいいですし、そこをもう少し拡大していくように頑張ります。


梅:3か月トレーニングをしながら、次のおうちを見つけるというだけでだいぶ変わってきますかね?


沼:その間に、必要な馬には治療するとか、馬自体も頭の切り替えができるというのがあって、次のトレーニングをするにもとても有効になってくると思います。


梅:あと触れ合える場所と沼田さんはおっしゃっていましたけど、会長どうでしょう?


飯:これは夢みたいな話になるんですけど、馬と触れ合う場所が日本にはほとんどないじゃないですか。アメリカはケンタッキーにホースパークという、馬のテーマパークがあります。広大な敷地に放たれている馬もいますし、そこでお子さんたちが乗馬を楽しんだり、チャンピオンホースが何頭か繫養されていたり、馬の博物館があったり、勉強したり楽しんだりする場所があるんです。例えばそういう施設が日本にできて、家族連れで行って、馬はこういうものだ、楽しいものだということがわかれば、次は馬に乗ってみようかなど裾野が広がっていくのではないかと思っています。これもお金のかかることなので、1番お金を持っているJRAさんと一緒にお話をしながらやっていきたいと思っています。


梅:ダーレー・ジャパンの澤井さんは、これから行っていきたいこと、既にダーレーさんの中で考えていることがありましたら教えてください。


澤:これはサラブレッドだけではなく馬事文化なってしまうのかもしれないのですが、オーストラリアやアメリカではポロ用にサラブレッドがたくさん転用されていたりですとか、ウエスタン競技にも転用されていたりするんですね。そういった中、日本でもこれから馬の新たな活躍の場を作っていけたら、それもプラスになるのではないかと思いますね。サラブレッドだけではなく、日本の馬文化のためにも。


梅:他に活躍できる場はありますか?


沼:馬=乗るのように、私たちは乗ることだけしか考えていないところがありますよね。乗らずに見ているだけでもセラピー効果があると思うんです。先ほど会長も仰っていましたが、医療の場での活用の中で(エビデンスが)ちゃんと実証されていくということがもっと進んでくると、もしかしたら保険も適用されるかもしれないですし、医療に役立てるためのサラブレッドの活用を具体的に考えていくようになると、馬の住む世界が広がっていくのかなと思いますね。


飯:あと海外ですがダーレーさんで盛んにやられているのはエンデュランス競技ですね。これも北海道で開催できますよね。乗るだけではなくて馬をいたわりながら競技をするので、エンデュランスに馬を転用していければ、その競技に出ていく馬たちも幸せですし、新しい1つの方法かなと思います。


梅:馬が活躍できる場を広げていきたいですよね。ゴドルフィンといったらドバイを思うのですけれども、ドバイで引退馬のリトレーニングはできないですよね?


澤:やってます。かなりの頭数がいるのですけど、一部はニューマーケットの方に運んで(リトレーニングを)行っています。


梅:引退馬は飼い葉代がかかりますよね?そういった飼い葉代の違いはありますか?


澤:北海道で牧草を作ったり、日本で採れる牧草もあるのですけど、日本の場合引退馬に限らず、餌はほぼ輸入です。なので例えばアメリカやオーストラリアに比べるとコストはかかります。


梅:日本はお金がかかるんですね。


沼:ほとんどが輸入に頼っていますから、かかりますね。土地が狭いので、厩舎に入れて飼わなければならない。そのためには運動もしなければならないということになると、人件費もかかりますね。


澤:余生を過ごさせると言っても簡単ではない部分もありますね。


飯:オーストラリアでは調教師が家に馬を飼っていて、それが元競走馬だったりするんですよ。そういうラフなやり方もあります。ただ日本だからできることは、難しいですね。逆に日本だから難しいという方が多いです。


澤:ですから会長の先ほどの案、テーマパークならファンの皆さんもオーナーもみんなウインウインじゃないですか。


飯:それが1番良いかどうかわからないですけど、競馬ファンだけではなくいろんな人が馬を知ることができます。そこから競馬に行く人もいるし、乗馬に行く人もいるだろうし、今圧倒的に困っているのは場所と人なんですよ。お金もね。


梅:馬券の売り上げを少しそちらに回すとか。


飯:できないことはないですね。


沼:どうぞ馬券から引退馬のために使ってくださいというファンの方がたくさんいるんですよね。JRAさんが例えば馬券とか、賞金とか、いろいろなところから天引きしてくださって、自分たちはそういう形で(引退馬支援に)参加したいと言ってらっしゃるファンの方がたくさんいますね。だからそういうところを積極的に取り組んでいただいて、最初からこのお金は引退馬のためと色付けができてしまえば、もっといろいろなことができるのかなと思います。


飯:アメリカには年金制度があるんですよ。買った時にオーナーが払う。


沼:馬を買った時に何パーセントかを払って、それを引退馬のために使うということですよね。


梅:なるほど。馬を買った時にですね。


飯:あとは馬が勝ったら(賞金の何パーセントかを)貯めていく。僕が今飼っている馬は、勝ったらいくらとその子のために貯金をしておきました。(そういうシステムを)個人ではなくて、団体でやってもらえればと思います。


沼:ファンの人もすごく参加したがっていますよね。それをうまく取り入れてほしいなと思います。


飯:もちろん屠畜される馬もいるということを理解してもらいながらやらないといけません。綺麗ごとだけで済まそうとすると一方で批判されるんですよ。


梅:光と影の両方の現実を知ってその上でできることをしていって、さらに馬が輝ける環境づくりができたら良いですよね。


飯:難しいです。難しいんですよ、この問題はね。だからできることをやりましょうということで、お金を出していく方向で今JRAも乗り出しています。


梅:ファンからは引退馬に気軽に会いに行けるようになるといいなというのも聞こえてきますね。


飯:だからホースパークを作れば良いんですよ。


梅:競馬の華やかな舞台をいつも見ていますが、その裏側には引退馬にまつわる様々な話があり、支えている方がいたりというのを改めて感じさせていただきました。会長、今回の対談はいかがでしたでしょうか。


飯:まあ古い付き合いでいつもお話していることなのですが、最初はこうなったら良いねという話だったのが、段々現実味を帯びてきて、実際に現実になっているものもあるし、徐々にですけど良い方向に向かっていると思います。今日は最初暗い話でしたけど、最後にテーマパークを作ろうじゃないか、そうすれば楽しくなるよと明るい話で終われたので良かったと思います。



STAFF

direction・edit|Kenichi Hirabayashi(Creem Pan)

Writer|Sachie Sasaki

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