Follow a dream Vol.03 飯塚知一×福永祐一×角居勝彦
- 新潟馬主協会
- 2022年1月31日
- 読了時間: 20分
更新日:10月6日
新潟馬主協会の飯塚知一会長が競馬や馬を愛してやまないゲストを招いて対談する「フォローアドリーム」。第三回のゲストは、JRAジョッキーでコントレイルのクラシック三冠やジャパンCはじめ数々のGIタイトルを手に入れてきたJRA 騎手の福永祐一氏と、牝馬のウオッカでダービー制覇をはじめ、述べ18頭のGI馬を手掛けてきた、元JRA調教師の角居勝彦氏をお迎え致しました。福永氏と角居氏には、海外遠征時の経験談や海外GI制覇時のエピソードのほか、お二人が力を注ぐ引退馬支援の現状や実際の活動、そして課題や対策、今後の構想などを、飯塚会長とともに熱く語り合っていただきました。司会は競馬番組でキャスターを務める梅田陽子アナウンサーです。

海外GI制覇で得たもの
梅:今回はお二方、ゲストをお招きしております。お一人目はデビュー以来第一線で活躍を続けていらっしゃいまして、積み重ねた勝利数が2500勝以上、誰もが知るトップジョッキーの福永祐一さんです。今日(収録日)はジャパンカップの翌日ということで、福永騎手、コントレイルでの優勝本当におめでとうございます。
飯:(福永騎手に花束を渡して)泣かないでくださいね(笑)
福:ハハッ(笑)、ありがとうございます。
梅:福永騎手、ジャパンCから1日経ってどんなお気持ちですか?
福:引退レースでしたので、まずは無事に走り終えることが出来たのが何よりでした。勝って三冠馬の名誉を守りたいという気持ちが強く、それを達成することができたので本当に良かったです。
梅:本当におめでとうございました!そしてお二人目のゲストは手掛けたGⅠ馬がなんと18頭。これまで最多勝利調教師賞をはじめ数々表彰されていらっしゃいましたが、2021年2月をもって惜しまれつつ調教師を勇退されました、名伯楽・角居勝彦さんです。勇退して、今は何をされていらっしゃるのですか?
角:生活の拠点は石川県奥能登の先端の輪島というところです。さらに最果てまで行った珠洲市で、引退した乗用馬1頭に新しい役割を作るというチャレンジをしています。
梅:今回は東京競馬場ゴール板前という特等席での収録になります。
飯:…皆さん少し寒いですが大丈夫でしょうか(笑)
角:ここにはなかなか来られないですね。
3人の共通点
梅:さて本題ですが、実はお三方にはある共通点があるのですけど、お分かりになりますか?
飯:お酒が好きなことでしょうか。
福:僕は好きじゃないです(笑)愛妻家。
梅:あっ、愛妻家でいらっしゃって?
飯:はい、愛妻家です!(一同、挙手)
飯 福 角:ハハハッ(笑)
梅:それも共通点かもしれないですけど(笑)実は飯塚会長、福永ジョッキー、角居先生の3人とも海外のGIに優勝経験のあるホースマンです。飯塚会長は2007年にシンガポール航空インターナショナルCを。またこちらはあまり知られていないですが、ヨーロッパのセリで購入されてフランスで競走馬登録をしていたスリーピングカー号がコンセイユドパリ賞、レッドモンスーン号がピアジェ賞を制しています。
飯:(スリーピングカー号については)友達とフランスに渡航した際に、偶然ドーヴィルのセリで購入した馬で、調教師になったばかりのパスカルバリに預けました。翌年彼から絶対に勝てるから見に来てくれとFaxが届いたので、見に行ったら6馬身差で大楽勝してくれました。
梅:福永ジョッキーは2001年にエイシンプレストンで香港マイルを、翌年に同じ馬でクイーンエリザベス2世Cを制覇しました。その後、シーザリオでアメリカンオークス、ジャスタウェイでドバイデューティーフリーを制しています。一方角居先生は、2006年にデルタブルースでメルボルンカップ優勝、その後はシーザリオでアメリカンオークス、ハットトリックで香港マイル、ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、ルーラーシップでクイーンエリザベス2世Cを制しています。ヴィクトワールピサはちょうど震災の年で、覚えていらっしゃる方も多いのではないかと思うのですけど。
角:そうですね。野球も見られなかったですし、娯楽が本当になくなって、そういう意味ではたくさんの方に見て頂いた海外での競馬でした。
世界を駆けた名馬①シャドウゲイト
梅:ではまず飯塚会長、シャドウゲイトがシンガポールに遠征するきっかけからお願いします。
飯:確かGⅡだった産経大阪杯で2着になり、すごく調子が上がっていたんです。そして次に使うレースが宝塚記念まで間隔があった。その間どうしようかと思っていたら、加藤征弘調教師からシンガポールのレースがあるので登録してみませんかと打診されて、それで決定しました。
梅:レースでは、田中勝春騎手を鞍上にスタートから先団につけるアグレッシブな競馬で先頭で直線を迎え、脚色が衰えることなくゴールし、ホッカイドウ競馬所属のコスモバルクとのワンツーフィニッシュとなりました。会長はもちろんシンガポールに?
飯:現地で応援していました。1番人気だったと思います。勝った時にウイニングランをしたのですけど、田中勝春騎手は、前のレースのジョッキーがしていたカメラに向かって指を差すというポーズを何回も練習していたようです(笑)
梅:それが実際にできる結果になって…。会長はどのあたりで勝てると思いましたか?
飯:パドックで…というのは冗談で(笑)、勝てると思ってはいませんでした。ゴールしてから本当に優勝したんだと実感が湧いてきました。
梅:このレースをご覧になって、角居先生はいかかがでしたか?
角:香港までは行ったことはありましたけど、シンガポールはもっと湿度が高いですし、馬のコンディション作りは難しい場所ではないかと思いますね。馬は涼しかったり寒くなるのは大丈夫ですけど、湿度が高くて暑いとコンディション維持には非常に気を遣うと思いますよ。
飯:シンガポールで調教師をしている日本人の方に随分協力していただいたと伺っていますし、現地のサポートはかなり重要な要素だと思います。
梅:角居先生、現地のサポートや言語だったり、スタッフさんがその場に慣れることがやはり大事ですよね?
角:言語が違うというのもありますし、日本人は勤勉なので馬にびっちり張り付いてしまうんですよね。本来人間は肉食動物なので、草食動物の馬が肉食動物にずっとそばにいられると落ち着かなくなってしまうんです。ですので、いかに日本と同じリズムで馬の調教をしたり環境をつくってあげられるかというのが大事です。
梅:福永ジョッキーは、シャドウゲイトのレースについて、どのような印象を持ちましたか?
福:前年にコスモバルクも勝っていますし、香港のGIがあった後にあるレースで、ちょうど良いローテーションを組めるような日程でした。そこで結果を出してくれて、日本馬の強さを海外に認知してもらうレースの1つになったと思います。


世界を駆けた名馬②シーザリオ
梅:角居先生と福永騎手も海外遠征に数多く行かれていますけど、その中でお二人がタッグを組まれた2005年のアメリカンオークスのシーザリオについて伺います。シーザリオは2歳の12月に福永騎手鞍上でデビューして3連勝。桜花賞2着の後オークスに優勝して、7月にアメリカのハリウッドパーク競馬場で行われたアメリカンオークスに挑戦。父内国産の日本調教馬では初となる海外GI制覇を成し遂げました。
福:アメリカで乗るのは初めてでしたが、シーザリオの能力に関しては絶対的な自信を持っていましたので、しっかりと勝つイメージを持って競馬には臨みました。
梅:福永さんから見てシーザリオはどのような馬でしたか?
福:世界中どこに行っても活躍できる馬だと思っていました。
梅:角居先生から見たシーザリオはどういう馬でしたか?
角:能力は高いのですが、入厩前から種子骨に少し問題のある子でして、そのあたり恐々の調整でしたね。能力を出すことと同時に壊さないという意味で、悩みながらレースに使っていた感じです。
梅:オークスの次に選んだのがアメリカンオークスだったわけですが、決断をされたのはどういった経緯だったのですか?
角:桜花賞で勝ち負けすれば、アメリカンオークスの招待が来るだろうという話を聞いていて、オーナーサイドにも話はしておきました。
梅:アメリカンオークスでも騎乗できると聞いた時の福永さんのお気持ちは?
福:オークスは、勝ちはしましたけど、いい騎乗ができなかったので、アメリカでは絶対に力を見せつけてやるという気持ちでした。
梅:会長は、このレースは覚えていらっしゃいますか?
飯:前年度にダンスインザムードが挑戦して敗れているのを観戦していましたし、その後の日本馬の挑戦でしたので大変興味深かったです。
梅:レースでは、好スタートから2、3番手につけて最終コーナーを待たずに先頭に立ち、直線では脚色が衰えるどころか、さらに後続を突き放し4馬身差をつけてコースレコードでの圧勝劇となりました。福永さん、作戦はあったのですか?
福:外枠だったので、2、3番手にさっとつけようと考えていました。前年、ダンスインザムードが内で結構閉じ込められていましたので、内には入れないでおこうと思っていました。前がある程度行ってくれて、ちょうど良い形になりました。結果的に引退レースになってしまったので、もう少し自分自身に余裕があれば、あそこまで(後続に)差を広げず(馬に)負担をかけずに勝つこともできたのではないかと。今なら多分、もう少し馬なりで楽に走らせられたと思います。3コーナー過ぎから残り400mしかなくて直線が短いんですよね。ですから見ている方は早いなと思われたかもしれないですけど、残りの距離を考えれば決して早いタイミングで仕掛けたわけではなかったです。
角:アメリカの芝競馬をやる人は、この作戦が正解だと。
福:アメリカ人が大好きな勝ち方だと。
角:そう言っていましたね。


海外遠征の苦労と醍醐味
梅:角居先生、海外遠征ではどのようなことをされたり気をつけたりしたのですか?
角:日本にいるような環境で馬づくりをするために、日常生活についても下調べをしたり、その段階からいろいろ勉強しました。調教のルールやメニューもすべて違いましたので一回下見をして、どうやるのかを組み立てるのも面白かったです。それこそ藤沢先生や藤沢厩舎のスタッフからダンスインザムードの前年の情報をいただきました。レース前日が建国記念日だったかで花火が上がるから、その反対側の馬房をもらった方がいいとか、メンコを持っていった方がいいなど教えてもらって準備できたのは大きかったですね。
梅:福永さんはどのくらいの期間、アメリカにいたのですか?
福:前の週の競馬が終わってからアメリカに渡って、追い切りに乗りました。前日に1レース乗れるようにしてもらったのですが、一連の流れを経験できてとても良かったです。まるっきり初めてだったので、勝手がわからないと余計なストレスがかかったりしますから。ジョッキールームに入った時に、日本人は僕一人だけだったので、威嚇とまでは言わないですけど、からかわれるような感じで何かを言われましたね。
梅:福永さんは、海外遠征は好きですか?
福:チーム感がありますし、そのチームの結束力も強まります。香港やドバイ、アメリカにしても、スタッフとより密にコミュニケーションが取れたりもしますし、そこが海外遠征の好きなところです。
角:スタッフやジョッキーの日常的な仕草が見られますしね。考え方も含めてですけど、人間的な関係性が深くなるのが海外遠征の楽しみの一つだと思います。ウチの厩舎は毎朝ミーティングをしていますが、その時にスタッフの顔色が悪いとか元気がないなと気づくのが大事なんですよ。それがダイレクトに馬に伝わってしまうので。ですので、海外遠征では楽しそうに仕事をしているかどうかも、大切な部分だと思うんですよ。環境が変わって言葉も通じなくて、萎縮する子もいるので、そうならないようにするにはどうしようかなと。ご飯を一緒に食べて馬鹿な話をするのも大事だと思います。
飯:角居さんのお話を伺って、そういうことがいかに大切かというのを改めて知りました。我々は馬主なのでそこまで深く関わることができないですが、前夜祭で関係者が一堂に会して食事をして盛り上がり、レース当日を迎えるというのが一つの楽しみだと思います。
馬主・調教師・騎手
それぞれが考える引退競走馬支援
梅:ここまで海外GI勝利経験のあるお三方の世界への挑戦についていろいろお話を伺ってきましたが、実はもう一つ、共通点があります。
福:子煩悩?
飯 福 角:ハハハッ(笑)
梅:まるで大喜利になってきましたけど(笑)、正解は皆さん引退馬支援に力を入れられているということです。会長はJRAの引退競走馬に関する検討委員会のメンバーですし、角居先生は一般社団法人ホースコミュニティの代表理事として、引退馬の余生に関する様々な活動をされていて、福永ジョッキーも引退競走馬に関する検討委員会のメンバーとして活動に参加されています。そこで、それぞれの立場から考える引退馬支援について伺っていきます。皆さんの現状を教えていただけますか?
飯:私が関わっている引退競走馬に関する検討委員会の発足は2017年で、それまではJRAもい引退馬支援活動にはあまり積極的ではなかったと思います。競馬の国際会議で10年程前から引退馬支援に関してどういった活動を(各国で)しているのかということが盛んに討論されるようになり、パートI国に昇格した日本の取り組み状況についても話題に上がりました。こうした流れの中でJRAもこれから(引退馬に関して)取り組みを強化しなければならないということがあり、委員会を立ち上げたのだと記憶しています。委員会を立ち上げる前に準備委員会が設置され、その後に検討委員会が設立されたのですが、これ以降JRAもより積極的に関与して頂けるようになりました。委員会でまず最初に行ったのは、全国に80箇所ほどある乗馬クラブや養老牧場などをくまなく回り、どういう活動をしているのか、どのような支援をすべきかのレポートを作成し、委員で検討しました。(会が立ち上がって)2年後ほど経ち、補助金を拠出することが決定され、調査して作成した資料をもとに支援金額を決定して、引退馬支援活動を行っている牧場や乗馬クラブ等に給付する流れが出来上がりました。
梅:福永騎手はいかがでしょうか?
福:僕も騎手会の副会長を務めているので、飯塚さんがおっしゃった委員会のメンバーの一人で、会議に参加させてもらっています。また評議員として角居さんがされているホースコミュニティにも関わらせていただいています。馬のおかげで成立している仕事をしている以上、その命に対して無責任ではいられないですし、馬の引退後の余生には関心を持たなければいけないと思います。若いジョッキーも含めて、引退馬支援に関心が高いジョッキーはたくさんいるので、騎手会としてよりそういった活動に深くコミットしていきたいです。
梅:角居先生は2021年2月に調教師を勇退されたわけですが、引退馬の支援活動はそのまま続けられていますね?
角:そうですね。JRAが引退した競走馬に対して関心が非常に高くなり、競走馬から乗用馬へのリトレーニングをした馬が出場するRRC(引退競走馬杯)と名付けられた競技(障害馬術と馬場馬術で行われている)に賞金を出してくれるようになって、あちこちの乗馬クラブでリトレーニングを行うようになりました。ただそれによってリトレーニングした新しい馬が来ると、それまで乗馬クラブにいた乗馬としての活動が少し落ちてきた馬が処分(屠畜)の方向に向かうんです。それは僕が思っていた形とはちょっと違っていて…。競走馬が乗用馬になれば助かると思ったのですけど、それによって既存の乗用馬が処分に進むのだったら本末転倒だと思いました。それもあって今、乗用馬で抹消されかけたドリームシグナル(2008年シンザン記念優勝)という馬を一頭、奥能登の珠洲市に連れていって、その馬の次の仕事を作るというチャレンジをしています。JRAが給付金を出すのも大事ですが、例えば競馬の売り上げが下がった時に(引退馬関連の)予算がカットされるかもしれない。カットされても馬が生き続けられるよう、馬が収益性を持って(牧場を)運営していける形を作らなければならないという取り組みに変わってきていると思います。そのためにサンクスホースプラットフォームといって、いろいろな団体(アステナホールディングスほか)の関係者と繋がろうという取り組みを奥能登の珠洲市で始めています。
石川県の奥能登での活動
梅:民間の企業を巻き込んで?
角:はい。競馬に全然関係のない企業なのですが、そういう活動に賛同したいと。地方創生や今よく言われるSDGsの形を取り入れて、地元の若い子たちに「生業」を作っていくという取り組みの一つに、馬を入れてくれることになりました。これが成功事例となれば、これから過疎化が進むような山間地域などに馬を導入して、行政も含めてチームを組んでいくことができるでしょう。
馬主・調教師・騎手、それぞれの引退競走馬支援
飯:馬主さんの中には競走馬が引退した後どうしたらいいのか、誰にお願いすればいいのかよく分からない方が多くいます。その方々をどのように角居さんの活動や、余生の牧場に繋げていけるのかが最初の仕事だと思っています。私も初めはわからなかったので、調教師さんにお任せして引退後は乗馬クラブで乗馬に転用して頂くという感覚だったのですが、乗馬クラブが数多くあるわけではないですし、その後を追跡して調べてみるとほとんどの馬が屠畜されている実態がありました。その現実を知って一頭でも多くの引退馬を救いたいという思いが私が活動を始めたきっかけです。今オーストラリアでトレイサビリティを盛んに行っていまして、引退した競走馬の全頭追跡調査を行う機関ができました。それを知ることが引退馬の余生をどう作っていくかの活動の第一歩になると考えているのですが、いかかでしょうか?
角:競走馬が毎年約7000頭生産されていて、3000頭弱が処分(屠畜)されていかざるを得ない。日本には馬肉を食べる文化もあるので、そこにも生業とされている方がいますから、屠畜して馬肉にしてはいけないというわけではないです。ただ競走馬として役に立たなかったから肉というのではなくて、ワンタイムツータイム、仕事が作れるのではないかと努力する。トレイサビリティで追跡するのである以上、馬をすべて生かせられるかといったら、それは難しい話になってしまいます。では7000頭から競馬に必要なだけの頭数に減らしてしまったら、今度は世界に通用しなくなるんですよね。ですから7000頭という頭数を意識しながら、馬の次の仕事を作っていくのが大事だと思いますし、馬関係ではない方々の違う考え方や発想の人たちと繋がっていくというのもいいと思います。
福:馬が人に必要される舞台がたくさんできればセカンドキャリア、サードキャリアに繋がっていくと思いますので、騎手会としては馬文化を広めていきたいです。騎手は発信力に長けていますので、イベントを企画したり、自分たちが現地に行って馬との関わりを全く持っていない人たちとの橋渡しをするのも可能でしょう。競馬ファンの中には馬の余生に興味を持ってくださる方がたくさんいますので、その方たちが(イベントや活動に)気軽に参加しやすいようにするのも、競馬会や競馬サークルで生きている人間の役割だと考えます。それがどこで行われるのかなどの問い合わせ窓口を作るのも必要だと思います。
梅:世界的に引退馬というのはどういう流れになっているのでしょう?
飯:この活動を力強く進めているのがダーレーで、そこから多分派生的に出てきたと思います。自分のところの生産馬のセカンドキャリアのために何ができるか、サードキャリアのために何ができるかというのを見極めて、例えばエンデュランスという耐久レースに出したり、乗用馬に転用する活動を行っています。しかし日本はエンデュランス競技を実施する場所も少ないですから、養老余生を過ごすような牧場が必要なのですが、何しろ人手がない、場所が足りない。私も何箇所か視察しましたが、例えば60頭とか80頭くらいの規模になると相当人手もいりますし、資金も必要になります。その解決のためにオーナーになっていただいた方やファンを招いて見学して頂くのですが、その方たちは競馬場での手入れされた馬の姿しか見ていない。それが放牧地で泥だらけになった姿を見て惨めな姿になっていると感じる方もいる。
角:よく言われてしまうんですよね。
飯:それを虐待などと言われると何もできなくなってしまいますので、こういう状況も理解して頂くことが大切だと思います。ですから福永ジョッキーがおっしゃるように、より広く周知することにより、引退した競走馬がどうなっていくのかという現状を知って頂くことが重要だと思います。
角:各競馬場には乗馬苑があって、そこにいる馬たちはずっとその競馬場に隣接していますので、より多くの人が馬と接点を持てるような場所にしていく。土日に無料で早い者勝ちになり、いつも同じ人がということも現状あるようなので、(競馬が)オフの日でもお金を取って回していってもいいのではないかと思います。
飯:例えば馬事公苑に行けば馬に会えることなどはあまり知られていません。素晴らしい施設があるのですから、それを知って頂き活用していく事は大切だと思います。
福:あとは人材育成ですよね。乗馬クラブも乗ることありきで乗る人が世話をしていますが、別に乗らなくても世話だけでいい、馬の扱いができるようになればいいという人も当然いるでしょう。そういう人が増えた方が馬を預けられる施設も増えてきますので、そういった活動も必要だと思います。
飯:とにかく知って頂く事が重要です。知らな過ぎるところに大きな問題がありますので。また、馬主さんそれぞれにも色々な考え方があります。経済動物と考えて方もいらっしゃいます。一方、本当に馬が好きで自分の馬の引退余生まで考えて牧場に預託されている方もいらっしゃいます。この様な状況を全て一括りで考え進めていくのは、なかなか難しいことだと思います。
福:命に無責任でいいのかというのはペットなどどの世界でも問題になっていますし、それは競走馬にも当てはまると思います。馬主さん側も難しいのであれば、その組織でケアできるように積み立てをしていくとか、騎手会でもお金を積み立てて引退馬関連の資金に充てるということも可能だと思います。個々人の良心に問うのではなく、制度化する方がいいのかなとは感じますね。
飯:制度化してそれが軌道に乗った後は、その引退馬たちをどのように繫養していくかが、次の問題になってきます。
福:もう合わせてやっていくしかないですよね。
角:限界集落の石川県の奥能登では山をどんどん県や市に返しているのですが、そこは間伐材の処理をしていなくて山自体が弱くなってきています。その山から猪や鹿が降りてきて、民家の作物を食い荒らすんです。そこに害獣予防の防波堤として馬を里山の麓に放すとか、山に馬を放しておくことで間伐する木がよく見えるようになったり、その間伐を切ってペレットエネルギーにするという取り組みもあります。都市集中型になっていますので、ローカルでは行政が持っている不要な土地が増えてきている。そこに馬が生きていける環境を作ってくという状況に変わりつつあると思っています。
飯:過疎化で廃校になった場所に、心を病んだ人を受け入れて馬の世話をして頂く、その事によって健康を取り戻すという取り組みも良いと思います。
角:実は2、3年後からJRAでは、東西で毎年100人単位の厩務員さんが定年退職して、馬を扱える経験値のある人がたくさん出てきます。北海道で牛と馬を共生させたり、奈良県では里山で働く馬を作るプロジェクトが始まるなど、退職した厩務員さんをそういう場所に回していきたいと関西の労働組合の事務長に話をしています。地方競馬の労働組合にも話を持っていく予定ですし、サラブレッドの経験値がある人なら在来種や引退した乗用馬であれば扱える可能性はあると思います。
梅:ソフト面ハード面と同時並行で。
福:競走馬といえばJRAなのでそこに相談窓口ができれば一番いいですね。
角:福永ジョッキーが言ったように窓口がないと、オーナーも気持ちがあってもできないこともあるんですよ。かつて私がそうだったように。ですから是非それは作りたいですね。そして退職された厩務員さんの、人間の方の利活用も。日本全国、来てほしいところがたくさんあるでしょうしね。
梅:飯塚会長、世界の舞台で活躍されて、引退馬支援にも通ずるお二方をお招きしてお話を伺いましたが、いかがでしたでしょうか。
飯:大変有意義な対談だったと思います。私自身も大変勉強になったこともありますし、これからも我々が引退競走馬のために尽力していかなければならないと強く感じました。
次回は、是非角居さんの珠洲の繋養牧場を視察しながら詳しくお話を伺いたいと思います。
STAFF
direction・edit|Kenichi Hirabayashi(Creem Pan)
Writer|Sachie Sasaki











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